人間の代わりに「ぬいぐるみ」が旅をエンジョイ 癒し効果絶大“石垣島エコツアー”
「帰宅」も魅力のひとつ
エコツアーに参加するぬいぐるみたちも様々。小さな子どもが抱きかかえるような典型的な動物のぬいぐるみもいれば、ご当地キャラのぬいぐるみ、俵型をしたゲームやアニメのキャラクター、フィギュア、お手玉状のものまでバリエーション豊かなぬいぐるみたちが、どれも気持ちよさそうに自然を満喫している様子がうかがえる。
「ツアーを始めた時は、子どもが持っているようなクマのぬいぐるみをイメージしていたんです。実際、始めて1ヵ月くらいは、エコツアーのリピーターの方々から子どものぬいぐるみが送られてきていました。1ヵ月半ぐらい経った頃でしょうか。“イケメンくん”が送られてきたんです」
“イケメンくん”は、アニメやゲームのキャラクターを模したぬいぐるみで、当該ぬいぐるみの持ち主がSNSでぬいぐるみエコツアーを紹介したことから、客層が変わった。
「自分は対象外だと思って遠慮していた方々から、次々と送られてくるようになったんです。大人の女性が多いですね。おかげで僕もアニメキャラがわかるようになりました」
大自然の中をエンジョイする様子が魅力な「ぬいぐるみエコツアー」だが、ぬいぐるみの「帰宅」も魅力のひとつだ。お土産のお菓子と、旅の思い出がたっぷり詰まったフォトブック、フォトブックに入りきらなかった写真データの詰まったUSB、そして「〇〇さん(ぬいぐるみの名前)から石垣島のお土産話をたっぷりと聞いてあげてくださいね!」という大堀さんの妻の則子さんからのメモと共に、ぬいぐるみたちが持ち主の元に帰ってくる。まるで、ぬいぐるみがお土産を選んで持って帰って来てくれたような気持ちになれる、心温まる演出だ。
「持ち主さんが、どうやったら喜んでくれるかな、元気になってくれるかな、と考えて、フォトブックやお土産をぬいぐるみたちが持ち帰る形にしています。データを送れば早いかもしれませんが、それでは味気ないですよね」
水中でぬいぐるみを放して連写
自然を満喫するぬいぐるみの可愛い写真たち。その1枚1枚に、大堀さんのエコツアーに対する思いも込められている。
「ぬいぐるみの背景に写っているマングローブの根っこや、砂浜に生息するカニや貝、美しい海やサンゴ、こういったものを見て、少しでも自然に思いを寄せてもらえるようになればいいなと思っています。例えば、石垣島とは離れたところにいても、サンゴの白化のニュースを見てちょっと気にしてもらえるような……。日常と石垣の自然、そこに1本の線が生まれるというか、つながりができるといいなと願っています」
“石垣島観光”ではなく、“エコツアー”にこだわる理由は、自然保護や環境教育への思いが根底にある。大堀さんは、東京で7年間働いた後、脱サラして沖縄に移住。同じく東京の水族館で働いていた則子さんと共に、この「エコツアーふくみみ」を始めた。自然と人を繋げる“インタープリター”として、のんびり型の自然体験ツアーを営む一方で、小中学校でサンゴ礁保全の授業を行うなど環境教育にも取り組んでいる。
「ですから、ぬいぐるみを石垣の有名な観光地に連れて行って欲しい、ぬいぐるみに沖縄そばを食べさせて欲しいなどのリクエストは、申し訳ないのですがお断りしています。自然体験に特化したエコツアーを楽しんでいただきたいので」
ところで、この海の中を気持ちよく泳ぐぬいぐるみたち。あまりにもキレイに撮れているので、合成写真だと思う人もいるのではないだろうか。
「よく言われるのですが、これは実際にぬいぐるみを海中に連れて行って、撮影しています。妻と2人で撮影スポットまで泳いで行き、構図を決め、水中でぬいぐるみを放して連写します。水中でくるくる回ったり浮いたりしてしまうので、良い写真が撮れるかどうかは運ですね。とにかくたくさん撮って、良い写真が撮れていることを期待します」
撮影待ちのぬいぐるみたちは妻の則子さんが大切に保護。大きめの容器に入れ、浅い場所で待っていてくれるのだという。沢登りをする時も、妻の則子さんと一緒。下流のマングローブの森で手作りのぬいぐるみ用カヌーに乗せて撮影し、岩場を登り、森の大きな木で写真を撮り、上流の滝でも撮影。撮影後のぬいぐるみはぬるま湯につけて塩分を落とし、軽く脱水してから自然乾燥させる。これで元通り、清潔でふかふかの可愛い子に戻る。
「よく“磯の香りがつきませんか”と言われるのですが、沖縄の海には有機物が少ないので、そういった匂いはつかないんです。ぬいぐるみも洗濯してあげると良いみたいなので、水中での撮影はそれほど心配されなくても大丈夫だと思います。ただ、手作りの衣装は注意が必要ですね。木工用ボンドを使っているものは水で溶けて剥がれてしまうので、縫うとか水に強い接着剤を使っていただいたほうが安心です」