不倫を何度も繰り返し… 自他ともに認める「女好き」がやっと気づいた“憎悪”の感情

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母への恨み

 息子が2歳のころ恋したのは、同じ保育園に子どもを預けているシングルマザーだった。由孝さんより8歳年上、何もかも包み込んでくれるような肝の据わったタイプに見えた。

「ふらふらと吸い寄せられるように彼女に近づき、関係をもちました。だけど数ヶ月で、何かが違うと思った。彼女がどんどん依存してくる気がして別れようと切り出しました。別れたくないと泣いた彼女に、『オレに家庭があることはわかってたでしょ』と切り捨てた。その後、また家庭的な父親に戻りました」

 しかし、2年ほどたつと気持ちをもっていかれる女性に出会う。そのころ彼は、父が亡くなった年齢と同じだった。今度はしっとりした雰囲気の人妻だった。

「この人とは2年くらい続きましたね。素敵な女性でした。最初は彼女の節度ある態度に惹かれたんですが、そのうちその節度をぶち破ってやりたくなった。最後は無茶ばかり言いました。深夜に『今からどうしても会いたい』とレンタカーを借りて彼女の自宅近辺まで行ったり。会えないと言われて玄関ブザーを鳴らし続けたこともあった。警察を呼ぶわよと言われて観念しました」

 関係はフェイドアウトしていった。そして彼はようやく気づいたのだという。自分は女性が好きなのではない、女性を憎んでいるのだと。それは裏返すと母への慕情からくるものだった。

「たぶん、心のどこかでわかっていたんだと思う。でも認めたくなかった。母を憎みたくなかったし、そういう自分がイヤだったから。本当は母に愛されたかった。その一言に尽きるんですよね……」

 杏子さんとは「妻と夫」という役割があるから、よけいな情熱や憎悪の入り込む余地がない。まして「母と父」でもある。その重責をまっとうするためには協力体制をとるのが当然だと由孝さんは考えていた。役割の中での愛情もある。だから大きなトラブルもなく家庭生活を過ごしてこられたのだ。だが恋愛となると話は異なる。

「ただの男としての僕は、母を恋しいと思い、母を恨んでいる小さなヤツなんでしょうね。妻は別として、女性には恋しさと憎しみが同時に沸き起こってしまうんだと思います。このことに気づいてからは、女性にふらふらと近づいてはいけないと考えるようになりました。今は40歳を目前にして、母を探してみたい気持ちも出てきて……。怖いけど会いたい、今どうしているのか知りたい。行動に移すかどうかはわかりませんが、母に会わない限り、もしかしたら僕の人生はまっとうに進めないのではないかと思うんです」

 彼が永遠に憧れ続け、なおかつその具体像が見えない唯一の女性が母なのだ。もともとは真面目な人なのだろう。ずっと矛盾と葛藤を抱えて生きてきた由孝さんの母が見つかることを祈りたい。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月16日掲載

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