「大豆田とわ子と三人の元夫」 今夜最終回の見どころをおさらいする
ヤングケアラーだった
通常のドラマでは「思春期は難しい年頃」として描かれ、特に母親の色恋沙汰で「子供が心千々に乱れるのは可哀想」的な圧力も強い。なんだ、その圧力。が、この作品では真逆。母の離婚や性格について最も理解しているのが娘であり、母の恋も仕事も応援してくれる頼もしい味方として描かれている。嬉しいよね、愛おしいよね。だからこそ、唄ちゃんが家を出た後のとわ子の寂しさがより増し増しで沁みてくるし、新たな恋を始める動機付けにもなるわけだ。
そんな自立している唄ちゃんが「勉強中の西園寺君のためにコーラを買いに行かなきゃ」といって、とわ子との電話を切るシーンがあった。たったこれだけだが、無性にザワつく。西園寺君、やべえヤツでは? コーラ買ってきたら「ゼロシュガーがよかったのに」とか文句つけたりしない? 最終回では唄ちゃんが幸せな方向へ進みますよう。
そして、後半で一気に話題をかっさらったツンデレ男・小鳥遊大史。演じるはオダギリジョー。朝のラジオ体操で会うときは優しくて穏やかで、話をちゃんと聞いてくれる稀有な男。一方、買収を仕掛けてきた外資系ファンドのマネージャーとしては、とわ子に社長退任を厳しく要求するハイエナビジネスマン。こういう仕掛けというかカラクリのある人物が、まさか後半に出てくるとは思わなんだ。恋の発芽にウキウキ浮かれちゃうとわ子と、一緒になって浮かれたよ。
なぜ小鳥遊に思いを寄せるかというと、オシャレだとか優しいとか見た目が素敵とかヒゲがセクシーとかではない。最も重要なのは「ヤングケアラー」だったところである。数学が大好きで大学に行きたかったけれど、家族の介護に追われて叶わなかった、という。17歳から31歳まで人生がなかった、という。分厚く描かずとも伝わってくる。若くして介護に追われた苦労と苦悩が。進学も就職も夢も希望もあきらめて、十数年過ごした絶望が。
劇中ナンバーワン
だからこそ、とわ子の思いを尊重することができて、お別れしたのではないか。とわ子とともにマレーシアに行って、人生を一緒に生きるパートナーになりたかったけれど、我を通すことなく穏やかに身を引く。ああ、この人が再び「のんびり一緒に暮らしたい」と思える人に出会えるといいなぁと心底出会ってほしいと願ってしまった。カレーでほだされる人に悪い人はいない。そう思った。
最後は、もう愛おしさで言ったら劇中ナンバーワン。MLP、MostLovelyPlayerとでも言おうか。しんしんこと中村慎森である。演じるは岡田将生。ああ言えばこう言う、三番目の元夫だ。
とにかく厄介で面倒臭い。お土産、雑談、スポーツ、花束、自己紹介、精神論、正月に運動会、クリスマスに節分……人間関係の潤滑油の存在をことごとく否定し、人にダメージを与える攻撃力100のくせに防御力ゼロ。最初は舌打ち100万回だったけれど、実はしんしん、最も後悔と未練が強くて、とわ子を全身全霊で愛していたのよね。
拗ねて屁理屈こねて、いちいちこうるさく見えたし、職場でのとわ子を観察し、心情を察し、勝手な心配もすれば勘違いもする。ストーカー行為もするけれど、情報収集して法務で絶妙なアシストもする。すべてはとわ子への愛。自己肯定感の低さゆえに、すべてを否定的にとらえてしまうどうしようもない自分を、いっときでも愛してくれたとわ子への恩と愛なのだ。
振り返ってみれば、とわ子への愛情も感謝も敬意も余すところなく素直に言葉にして伝えてきたのがしんしん。「いつも頑張っててキラキラ輝いてずっとまぶしいよ。それをずっと言いたかったんだよ」「僕は君のことが好きなんだよね」「元夫だけど誰よりも君のことを思ってる」「僕は君に恋をしたし結婚もしたけど、強い夫にはなれなかった。悔やんでも悔やみきれない」
[2/3ページ]