事件現場清掃人は見た 自殺した20代男性の遺書を姉が“処分して”と言った理由
孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏に、硫化水素で自殺した20代男性について聞いた。
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高江洲氏が特殊清掃の現場に向かう時は、必ず「事件現場清掃会社」とロゴの入ったトラックを使うという。そのため、稀に遠方まで出向くこともある。
「かれこれ十数年前の話です。岡山県に住む30代の女性から仕事の依頼がありました。アパートの浴室で、弟が自殺したというのです」
と語るのは、高江洲氏。
高江洲氏は、いつものトラックで会社のある横浜から岡山へ向かった。
硫化水素発生中
「岡山まで9時間かかりました。現場では、依頼してきた女性のご主人が出迎えてくれました。女性はショックが大きく、立ち会えないということでした。亡くなった男性は20代で、浴室で硫化水素を発生させたそうです。洗面器にイオウが入った六一〇(むとう)ハップという入浴剤を入れ、トイレ用洗浄剤のサンポールをかければ硫化水素が発生するんです」
2007年頃、この方法で自殺する人が続出し社会問題になった。そのため、六一〇ハップは2008年に製造中止になっている。
「アパートの間取りは2DKでした。部屋は小ぎれいに整頓されていました。玄関ドアに『硫化水素発生中』と書いた紙を貼っていたため、すぐに遺体は発見されました。そのため、浴室もほとんど汚れがありませんでした」
男性は、自身の病に苦しんでいたという。
「男性は、高校時代から家族に暴力をふるっていたそうです。父親は早くに亡くなりましたが、姉と母親は彼に苦しめられた。学校でイジメにあっていたようで、その反動で家族に当たり散らしていたようです。そういう事情があったため、社会人になると、アパートで一人暮らしを始めたといいます」
高江洲氏は、遺品を整理するため部屋を見まわしてみた。
「本棚には、DVや精神病に関する本が何冊もありました。暴力をふるうことを止められない。悪いことだとわかっていても、ついやってしまう。そんな自分が嫌だったのでしょう。お姉さんは、殴られても、何とかしてあげたいという気持ちがあったそうです。弟には愛情があったのでしょう」
机の上には、ノートの切れ端に書かれた遺書があった。以下はその全文である。
《遺書
残りの人生を一人ぼっちで生きていくのが怖くなりました。
お母さん、お姉さん、みんな本当にごめんなさい。
残ったぼくの物は全部捨てて下さい。
出来たらぼくの事は忘れて下さい。
ごめんなさい。》
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