市川海老蔵「KABUKU」の中国人差別問題 歌舞伎界から擁護の声が出ないワケ
やっぱり差別だった?
誰もが自由に見られるテレビやYouTubeなら厳しい基準が必要だろう。だが、明治座や南座の観客は基本的に歌舞伎ファン、海老蔵ファンしかいない。当然、観劇経験も多いはずで、歌舞伎についての知識も一般人よりは豊富だと考えられる。テレビより規準を緩くしたとしても不思議はないだろう。
「たとえ現代の基準で眉をひそめるようなギャグが演じられたとしても、地上波のバラエティ番組と同列に扱うわけにはいきません。インターネット上の“クレーム”に屈することが続けば、演劇界が萎縮してしまうという意見には、ネット上でも一定の支持がありました」(同・担当記者)
だが、取材を進めていくと、「差別的」との批判が集中したのも、それなりの理由があったようだ。
そもそも本作は、新聞やテレビ、演劇評論家などによる“演劇ジャーナリズム”があまり注目していなかった作品だった。更に歌舞伎独特の公演様式も影響を与えたようだ。
通常の演劇の場合、よほどの例外を除いて、1公演につき1作品のみが上演される。シェークスピアの「マクベス」や、イプセンの「人形の家」という具合だ。
ノーチェックの作品
「歌舞伎は娯楽に乏しい江戸時代に人気を博したため、早朝から夕方まで1日がかりで上演されることが珍しくありませんでした。長大な作品をノーカットで上演しても、今の観客には合いません。そのため古典作品から名場面だけを選んで演じたり、時間の長くない新作歌舞伎を制作したりして、2〜3作品を演じることが一般的です」(同・担当記者)
今回の海老蔵歌舞伎も、「実盛物語」と「KABUKU」の2本立てとなっている。前者は歌舞伎ファンなら誰もが知る名作だ。
人形浄瑠璃として1749年に初演された「源平布引滝」の1幕なのだが、ここだけを選んで上演されることが多いことから、「実盛物語」という名前が付いている。
「おまけに今回の『実盛物語』は海老蔵さんと長男の堀越勸玄くん(8)の共演が大きな話題になっていました。何しろ12代目市川團十郎(1946〜2013)と海老蔵さんの親子共演以来、34年ぶりに成田屋親子の『実盛物語』が実現するということで、事前の報道も親子共演一色でした」(同・担当記者)
一応、新聞記事は「KABUKU」にも触れた。とはいえ、基本的には1〜2行で処理されてしまった。
複数作品が上映されることが前提の歌舞伎では、1本がメインで、あとは“刺身のツマ”という公演も少なくない。歌舞伎関係者が言う。
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