積水ハウス地面師事件 責任逃れでクーデターまでやった前会長を追い詰める株主代表訴訟
経営幹部の醜い姿
「不正を糺せば、解任される」
2018年1月に積水ハウスで起きたクーデターは、欧米の投資家たちに自浄能力のない日本企業の姿を印象付けた。この前年に、地主に成りすまして他人の土地を積水ハウスに勝手に売却するという地面師事件が起きており、その腐敗を正そうとした和田勇会長が、阿部俊則社長のクーデターによって解任されたからだ。
2011年には、オリンパス社長のマイケル・ウッドフォード氏が、長年隠し続けてきた粉飾決算を糺そうと行動をはじめた矢先に、取締役会で解任された。このときウッドフォード氏が英BBCをはじめ欧米メディアのインタビューを受けたことで、すでに日本の腐敗構造は世界に知れ渡っていた。欧米投資家にとって、積水ハウスのクーデターはオリンパス事件の再来に映ったのである。
このほど上梓した拙著『保身 積水ハウス、クーデターの深層』(角川書店)はその顛末を描いたものだが、この2つの事件に共通していたのは、保身に走る日本人経営幹部の醜い姿だった。
マンションを親戚に譲渡
オリンパス事件では、ウッドフォード氏の解任を主導した当時の会長は、粉飾決算が明らかになった直後に、自身が所有するマンションの2室を親族に譲渡していた。株主代表訴訟で善管注意義務(善意なる管理者の注意義務)違反に問われれば、巨額の損害賠償を課されてしまう。そのため、資産を差し押さえられることを見越し、事前に親族に譲渡したと見られる。会社と社員、株主らを置き去りにして、我先に責任から逃れようとする経営トップの「保身の姿」に筆者は衝撃を受けた。
経営者の逃亡は、2015年に発覚した東芝粉飾決算事件でも繰り返された。当時の社長もまた、株主からの責任追及が及ぶことを見越したかのように、退任直前に親族に自宅マンションの権利を譲渡し、激しい批判を浴びた。
問題を自覚しながらも、解決を図らずに放置したあげく、その責任から逃れようとする経営者がなぜ現れるのか。日本の経営者の劣化は積水ハウスのクーデターで極まったように感じた。
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