「徴用工」請求却下 2度前倒しされていた判決言い渡しに見る文在寅の「対日融和」

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判決当日に通達のバタバタ

「却下判決」は韓国でももちろん大きく取り上げられた。

 左派系のハンギョレ新聞は「荒唐無稽な論理で組み立てられた異例の判決」と非難する一方、保守系の朝鮮日報は「歴史問題を政治利用してきた文政権と超法規的判決を出した大法院の責任」と断じている。

 例えば、原告側は65年の請求権協定で日本が提供した無償3億ドルが少なく、それゆえに協定で元徴用工の請求権は解決されなかったと主張したが、判決は「世界的に漢江の奇跡と称される経済発展に寄与した」と一蹴。さらに、原告の請求を認めた場合の不利益に言及し、「自由民主主義という価値を共有する西側勢力の代表国家のひとつ・日本との関係が傷付き、さらに米国との関係まで悪化し、その結果、安全保障が損なわれる」と踏み込んだ「日本や米国に配慮した判決」である点が注目されている。

 今回、日本に有利な判決が出たとはいえ、訴訟はまだ1審の段階である。韓国には、国民世論次第で司法の判断がどうとでもなるという厄介な風習(「国民情緒法」などと呼ばれる)もあるため、現政権が支持率確保のために2審、3審で韓国側に有利な判決を下させるかもしれないし、政権交代の後に前政権を否定する目的で判決が覆る可能性も十分に予想される。

 そもそも今回の判断は日本にとって真っ当なものではあるが得られる果実は限定的であり、その一方で、大法院で敗訴が確定した日本企業の資産現金化については手続きが着々と進んでいることは非常に憂慮される。

 実は、判決言い渡しはもともと今月11日に予定されていた。それが10日に前倒しとなり、さらに7日に再度前倒しされた。しかも7日への前倒しは、その当日に原告・被告双方に通達されるという異例の進行具合だった。

 このバタバタの背景にあるのは、文大統領が今月11日から開催される先進7カ国首脳会議(G7)に参加すること。G7参加がほぼ固まったのを受け、直前に日本側に有利な判決を出し、これを手土産にG7に乗り込み、米国の手を借りてでも日韓首脳会談を実現させる――。韓国政府はそんな青写真を描いているようだ。現段階で日韓首脳会談が行われる予定はないが、韓国側は以前から関係改善のために会談の実現を切望してきたという経緯がある。国内からの判決への激しい突き上げと整合性をどう取るのか、難題が降りかかっているのは間違いない。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月10日掲載

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