免疫力をアップする最強の「野菜スープ」 抗がん剤の世界的権威も推奨
10種類の野菜で
野菜を食べる理由が分かったところで、「いやいや、私は野菜をたっぷり食べているから大丈夫」と言われる方は次の2点をチェックしていただきたい。
まず1点目。野菜を生で食べていませんか?
日本人はいつから生野菜を食べるようになったのだろうか。人類は火を発見して以来、野菜は煮るか炒めるか蒸すかで、近代に入って西洋文化に影響されるまで、日本食も煮野菜が一般的だった。サラダという言葉が誕生したのは14世紀のフランスだが、日本では根付かなかったのだろう。
私が生野菜を初めて食べたのは1970年代だったが、どちらにしても日本で普及したのは戦後である。
本来、人間は生野菜を食べるようにはできていない。なぜなら、野菜の細胞を包んでいる細胞壁はセルロースやリグニンといった硬い物質で作られていて、人間の胃では消化できない。ところが、抗酸化物質のほとんどは細胞壁の内側に入っているのである。よく噛めば壊れそうに思うが、実際はほとんど壊れない。ジュースやスムージーにしても、思ったほど壊れない。実際、生野菜を食べたあと検便して調べてみると、細胞壁が壊れずに残っていたそうだ。もちろん一部は腸内で消化されるが、多くは消化されずに排出されるのだろう。
牛や山羊が草を食べるのは、胃の中にセルロースを分解する微生物を持っているからだが、では微生物を持っていない人間はどうしたかというと、消化されやすいように煮たり焼いたりしてきたのである。
消化できないから火を使うようになったのかもしれないが、実際、生野菜を5分ほども煮ると細胞壁を作るセルロースが簡単に壊れて、細胞の中から抗酸化物質が外に出てくる。
すでにお分かりになったと思うが、野菜の抗酸化成分を効率よく摂るには、加熱して野菜スープにするのがベストなのだ。
野菜を煮炊きしたらビタミンCが壊れてしまうのじゃないか? 実は結晶のビタミンCを水に溶かして加熱するとすぐ壊れるが、野菜の中のビタミンCはほとんど壊れない。日本だってサラダ文化が入ってくる以前は、野菜を煮炊きして食べていたのに、壊血病が大きな問題にならなかったことでもわかる。心配せずに野菜を煮ていいのである。
このスープは誰にでも作れる。玉ねぎ、人参、いんげん豆、大根、ホウレン草など、好きな野菜を好みで細かく刻み、沸騰する前に弱火にして20~30分ほど煮るだけだ。後は出汁醤油や塩などで味付けすれば完成である。このあたりは野菜スープのレシピ本を参考にしてもいいだろう。面倒ならブイヨンを使ってもいいが、市販のブイヨンには添加物がたくさん使われているものもあるので要注意だ。
野菜スープだからといって野菜に限定する必要はなく、肉類なども一緒に入れればさらにおいしいスープができる。また硬水で作ればミネラル分も一緒に摂取できる。前田名誉教授によれば、10種類ぐらいの野菜を使った方が、相乗作用でより効果的だという。
1日に最低1回、食事の際に、この野菜スープをカップ1杯、毎日食べ続ける。毎朝作るのが面倒だという方は数日分をまとめて作って冷蔵するか3日以上保存するなら冷凍したほうがいいだろう。
野菜スープが好きじゃない方は、味噌汁にすればいい。子供がいる家庭なら、野菜いっぱいのカレーにしてもいい。小さく刻めば野菜嫌いな子供も食べられるし、カレーに含まれるターメリックは強い抗酸化力を持っているので相乗作用も期待できる。
どんな野菜を使うかはお好みだが、基本的にハウス栽培よりも露地栽培の野菜がいいし、季節はずれの野菜より旬の野菜がいい。抗酸化力が大きく違うからである。また、加熱した後の抗酸化力を比較すると、しそ、レタスなどが非常に強く、大根や人参の葉、みつば、春菊、小松菜、なすび、いんげん豆、パセリ、ブロッコリー、玉ねぎなどが続く。
大根や人参の葉はそのままでは食べづらいという方は、バターやオリーブオイルで炒めた後でスープにしてもいい。トマトに含まれているリコピンなどは油に溶けやすいからより吸収されやすくなる。
ただ、使う油も要注意だ。市販の食用油は不純物が除去されているから透明だが、こういう油はすぐに酸化してしまう。通常、搾ったばかりの油は濁っている。先ほど種はDNAを守るために抗酸化物質で満たされていると述べたが、濁っているのは、この抗酸化物質なのだ。オリーブオイルでもバージンオイルが濁っているのはこのせいだ。
近年になって、濁っているのは見た目が悪いと誤解したのか、抗酸化物質を吸着、濾過(ろか)して透明にして売られるようになった。抗酸化物質がないから、熱や紫外線で酸化しやすく脂質ラジカルという危険な活性酸素ができる。近年、日本でもがん患者が増えたのは、高齢化に加え、透明な食用油を使うことが増えたからだと言われているほどだ。どの油を使ってもいいが、できればバージンオイルを使いたい。
さて、チェックすべき2点目。その野菜は有機栽培ですか?
たとえば緑茶にはカテキンやビタミン類などの抗酸化成分が豊富で、動脈硬化や心臓血管障害の予防に有効だと言われているが、農薬を使って栽培したお茶なら、湯煎するとこれらと一緒に農薬も溶け出す。同じことはホウレン草などの野菜にも言え、豊富に含まれる葉酸などと一緒に農薬も食べることになる。
この農薬にどういう影響があるか。人間ではできないのでウズラで実験してみると、体内の活性酸素を消去する抗酸化酵素が著しく減少して雄雌ともに生殖細胞に影響が及び不妊の原因になるというデータや、ラットでは腸内細菌叢が変わったという実験結果もある。
なによりも怖いのは発達障害との関連性が指摘されていることだ。葉酸は赤血球の生産や細胞分裂、DNAをつくるためのビタミン類であり、妊婦はもちろん男性にも必要だと言われているが、せっかく摂取しても農薬の危険性を考えるとお勧めはできない。
とはいえ、通常の野菜に比べて有機栽培は値段も高い。つい尻込みしてしまいがちだが、病気を避けるための保険代と考えれば、そんなに高い買い物ではないと思う。それに、毎朝カップ1杯の野菜スープなら、それほどコストアップにはならないだろう。
前田名誉教授によれば、がん治療をしている患者にこの野菜スープを飲んでもらったところ、非常に体調が良くなったという意見が多く寄せられたそうだ。もちろん使ったのは有機野菜である。また別件だが、自然栽培の野菜を悪性リンパ腫の患者らに食べてもらったところ、症状が改善したという報告もあるそうだから、野菜に含まれるファイトケミカルは人間にとって薬のような作用があるのだろう。
健康な高齢者の食生活を調べると、抗酸化物質のポリフェノールをたくさん摂っていたり、食物繊維の多い食事をしていたそうだ。
ポリフェノールというとワインを連想しがちだが、それだけではない。コーヒーやお茶にも多く、ベリー類など赤や紫の色素を持つフルーツや野菜にも豊富に含まれている。また、ニンニク、ミョウガ、ブロッコリーには特に多い。
善玉菌が元気に
有機野菜で作った野菜スープは、体内の活性酸素を消去して病気の予防になるだけではない。これを毎日摂り続けることで、免疫力アップにつながるという。
人間の腸には1千兆個ともいわれる腸内細菌がいる。免疫細胞の7割は腸にあり、腸内細菌がそれを活性化しているのだ。自己免疫性疾患やアトピー性皮膚炎といったさまざまな免疫系疾患の増加は、腸の免疫システムがおかしくなったからではないかといわれ、腸内細菌叢が関係していることをうかがわせる。腸内細菌叢の変化はさまざまな病気をもたらす可能性もあるのだろう。言うまでもなく腸内細菌を変える大きな原因は食事である。食事は私たちの体に大きな変化をもたらすということだ。
新型コロナで免疫力がよく話題になるが、この免疫力をアップするのが、腸内細菌叢の中の善玉菌である。善玉菌はもっぱら多糖類を分解してエネルギーにしており、多糖類を腸に届けてやれば善玉菌が元気になって増えてくれる。
多糖類というのは、でんぷんや植物のセルロースなどがそうだ。でんぷんは水には溶けないが加熱すると溶けるように、野菜スープには野菜の多糖類が溶けている。これが善玉菌のご飯になって免疫力をアップしてくれるのである。
しかし、この野菜に農薬が使われていたらどうなるか。ラットの研究では腸内細菌の構成が変わってしまったというから怖い。善玉菌ではなく悪玉菌優位に改悪されてしまい、さまざまな病気の原因になるのだ。また、腸と脳はつながっていて、緊密に連絡を取り合っているといわれ、腸内細菌叢が変われば脳にも影響する。そんなことを考えると、せめて野菜スープだけでも有機野菜にこだわりたいものだ。
私たちは、過去に起こったことは分かっても、未来に何が起こるかを知るのは困難だ。だが、正確な情報を集めることである程度の予測は可能だろう。農薬の問題も同じである。最近の農薬で指摘されている毒性は、拙著『本当は危ない国産食品』(新潮新書)にも書いたように、自己免疫性疾患や発達障害などの神経毒性、あるいは精子を減少させたりして不妊の原因になる生殖毒性など、私たちの未来に関わる問題だ。でも、それが明らかになるのは何年も先のことで、たとえはっきりしたところで、農薬が影響しているなんて誰も証明できない。農業問題に詳しい鈴木宣弘東大教授のいう「今だけ、金だけ、自分だけ」を考えていたら後悔するに違いない。せめて私たちは、危ないと思ったら食べない、食べさせないことで自分と自分の家族だけでも守りたい。
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