クロマティに殴られた男が感じた運命の糸…乱闘シーンの裏で本当にあった「人間ドラマ」

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「江藤さんのことを好きになった」

 巨人ルーキー時代の上原浩治が、乱闘騒ぎに際して、相手チームの選手に感謝するひと幕があったのが、99年4月20日の広島戦だ。
 
 6対0とリードの巨人は3回、杉山直輝がエジソン・レイノソの内角攻めに怒り、捕手・西山秀二を睨みつけた。

 杉山は6日前の広島戦でも黒田博樹から頭部死球を受けたばかり。この日は前の打席で2ランを放っていたとあって、「また狙われた」と思い込んだようだ。

 その裏、西山が打席に入ると、上原の初球が腰を直撃する。「本当に球が抜けただけ」という上原だったが、西山は先ほどの内角攻めに対する報復と確信し、振り向きざま杉山の胸ぐらを掴んだ。これを合図に両軍ナインがベンチを飛び出し、本塁付近で小競り合いとなった。

 上原も成り行き上、本塁へ向かおうとした直後、江藤智が駆け寄り、「お前は来んでいい。下がっていろ」と声をかけた。けがをさせてはいけないと気遣ったのだ。

 江藤は翌年に巨人にFA移籍するが、この時点では敵チームの一員である。感激した上原は、自身の公式ユーチューブチャンネルで「一気に江藤さんのことを好きになった」と回想している。

 巨人に移籍した江藤は、優勝マジックを「1」とした2000年9月24日の中日戦で、上原が4失点で降板したあと、0対4の9回に起死回生の同点満塁本塁打を放ち、上原の負けを消したばかりでなく、次打者・二岡智宏のサヨナラ弾を呼び込み、4年ぶりV決定に大きく貢献した。

 一見殺伐とした乱闘シーンの中にも、さまざまな人間ドラマが織りなされていることがよくわかる。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年6月7日掲載

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