【無罪主張】日立妻子6人殺害の父親が寄せていた手記 「私はなぜ家族を殺めたのか」

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帰宅が遅くなった妻

「スナックで週2、3日、アルバイトする」と妻が言い出したのは、幸虎が小学校に上がるこの年の春でした。昼の仕事と掛け持ちです。私もようやく6月になって、自動車ガラス店に職を見つけました。「これが最後のチャンスだからね。次辞めたら知らないよ」と、妻からは言われています。

 妻が夜いない日は、私が保育園の迎えに行き、食事を作り、子供たちを風呂に入れました。子供たちと餃子をひとつずつ皮で包んだり、フライパンいっぱいの大きなハンバーグを1枚焼いて、それをみんなで切り分けたり。ご飯を炊き、洗い物もしてくれるほど、夢妃は大きくなっていました。

 私はいつも妻が帰宅するまで待っていました。が、零時、1時がそのうち3時、4時になっていった。「店の女の子に駐車場で捕まって立ち話をしていた」と妻は説明する。私は心配になって、何回か店の近くまで見に行っています。駐車場や近くのコンビニで店の子と一緒にいる妻の姿を見つけ、安心したものでした。

 その後も遅くなる理由を尋ね、妻に逆切れされた日もあります。「もう俺の給料も入っているんだから辞めてほしい」と言っても、「気晴らしになるから」と。それもそうかと考え直し、「もう疑うのは止める」と宣言しました。ところがその矢先、妻の車に乗った際、何か違和感を感じたのです。

「誰か乗せた?」

「頼まれて、ママを乗せて送って行った」

 その時はそういう答えでした。

「店のお客さんを送って行った」と言って、明け方に帰宅した日もありました。私はカッとなり「タイヤを外して、乗れないようにしてやる」と、ジャッキを手に外に出ました。妻は私に掴みかかってきて、押し合いになり妻が転んだのです。近所の人に目撃され、事件後、「暴力をふるっていた」と書かれることになります。

 そのうち、妻は「お客さんからもらった」と言っては、土産を持ち帰るようになりました。子供たちへの菓子から始まり、「調子悪いって言ったらくれた」とガスコンロまで。それから加熱式タバコ「アイコス」を吸うようになっていました。それも「もらった」という説明だった。

 妻はたびたび胃痛を訴えるようになっていました。体調が悪いから、勤め先で点滴してもらうとも言っていました。家事もほとんどしないようになり、食事はすべて私が作るようになっていった。私にもそれまでの引け目がありました。

 でも妻は仕事は休まず、スナックにも通っていました。帰りが遅く見に行くと、すでに閉店していて妻の車もない、という日が何度かありました。しかし口を出さないと約束していたので、私は黙っていたのです。

盗み見た妻のスマホに男とのやり取り

 こうして迎えたのが、9月30日でした。その日は長女と長男の通う小学校の運動会で、夢妃にとっては小学校最後の、1年生の幸虎にとっては最初の運動会でした。幸虎は人見知りで心配だったのですが、思いのほか早く学校に慣れて、私も妻も安堵したものです。

 その日は私も撮影に張り切っていて、朝、うきうきしながら家を出たのです。一辺が3メートルある「タープテント」を応援席で組み立てて、中央にテーブルを置く。開会式が終わったあたりで妻の両親たちが到着しました。

 妻がおかず類を、義母がごはん類を担当し、持ち寄っていました。点滴のおかげか、妻も調子が良さそうで、朝早くから台所で準備をしていました。妻が台所に立つのを見たのは、1カ月ぶりでした。

 私は撮影場所とテントとの往復で忙しく働いていました。夢妃は「借り物競走」で1着、幸虎は「駆けっこ」で3着。幸虎のダンスが終わって弁当の時間になり、妻と義母がテーブルの上に料理を広げていきます。妻はスマホでそれを撮影していて、私は「インスタにでも載せるのか」と見ていました。

 運動会は引き分けで幕を閉じ、子供たち二人は一度、教室に戻りました。しばらくして妻が下駄箱まで迎えに行き、下の子たちは後ろの席でDVDを見ていた。何気なく助手席に目をやると、妻のアイフォンが置いてありました。それまでも何度か隠れて見たことはあったのですが、パスワードを入力しラインを開くと、何人かの店の客とのやりとりが見える。一番上にあったトークをタップすると、送信されていたのは、先ほど家族で囲んだ弁当の写真だったのです。〈頑張って作ったよー〉とあった。

〈今日、昼休みそっち行くね〉

〈何か食べたいものある?〉

〈早く一緒に寝たい〉

〈好きだよー〉

〈早くダンナとケリつけてね、待ってるから〉

 あの時、妻のスマホさえ見なければ、今、私はこんなところにいなかったのではないかとも思います。落ち着こうと、深呼吸をしていると、妻が長女と長男を連れ戻ってくる姿が前方に見えました。

「○○という人と、どこまでいっているの?」

「もしかしてケータイ見たの?」

 私は正直に答え、車を自宅に向け発進させました。妻は黙って下を向いています。

「家に行っているんだろ?」

「何度か行った」

 私は肉体関係についても尋ねましたが、妻は「それはない」と否定しました。

「その人に対して気持ちがあるの?」

「うん。離婚したいと思っている」

 私は何も返せませんでした。

 この日は土曜日でした。スナックのバイトの日です。「話し合いたいから休んでくれないか」と頼むと、「今日は女の子が少ないから休めない」という返事。

「起きて待っているから、店の後、その人の家に行ったりしないで帰って来てほしい」

 妻も了解し午後7時頃、家を出ていきました。

 私は子供たちに夕飯を食べさせ、風呂に入れて、9時過ぎには下の三人を寝かし付けました。夢妃と幸虎と、私の撮影した運動会のビデオを見ました。二人も妻を待っていたのですが、1時、2時となっても帰って来なかった。3時を過ぎ、私は自分の車でスナックに行くと、妻の車はなく、店も照明が落ちていました。

 以前、妻がガスコンロを持ち帰った時、「お客さんがパチンコで勝ったからって」と妻が言い、その客の話題になったことがありました。住所もだいたい聞いていたので、私は何となくそのあたりを流していたのです。すると裏の通りに、妻の白いエルグランドが見えました。

 このときほど頭に血が上った経験を、私は知りません。まわりにはアパートがいくつもありますが、この中のどれかに妻は確実に男といる。ひとつずつピンポンを鳴らすかとも考えましたが、思い悩み、世話になっていた知人に電話をしました。

 私は事情を説明し、「今から乗り込もうと思う」と伝えると、彼は「部屋もわからないだろう。車の写メだけ撮って、まわれ右して帰れ」と言う。

 エルグランドのマフラーの音が近づいて来て、恵が帰宅したのは午前4時頃でした。「遅かったね、忙しかったの?」と話をふると「店の子に捕まって話してた」という。

「車、見つけちゃった」

 私は正直に伝えました。

「家に帰りづらかったから……」

「そんなに好きなのか」

「好きかと言われれば好きかな。何も考えないでいられて、楽なんだ」

「それで俺とは離婚したいってこと?」

「その人と離婚の話とは別です」

 空は明るくなり、頼瑠と澪瑠が目を覚まし起きて来ました。話を中断し、恵は双子をあやしながら寝室に行き、寝てしまいました。私はまったく眠る気がせず、そのまま起きていたのです。

(以下、後篇) ※2021年6月8日配信予定

デイリー新潮編集部

2021年6月7日掲載

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