「BAD HOP」メンバーが語る地元・川崎“南部”の不良文化 今や成功した彼らの原点とは
ヤクザの不況のしわ寄せが不良少年へ
近年、暴対法(正式名称は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)による規制の強化もあって、暴力団が不況産業化していることはよく知られているが、結果的に締めつけられるのは下部組織だ。そして、その影響は地元の不良少年たちにすら及ぶことになる。フッドスターの化けの皮が剥(は)がれ、モンスターが襲いかかってきたのだ。BAD HOPが足を踏み入れたのは、堅気(かたぎ)よりもよっぽど息苦しい社会である。
「中学生になると、“カンパ”っていう形で上納金を徴収されるようになりました。川崎の不良には自由がないんですよ。バイクで走ってるだけで止められる。最悪、当てられて轢(ひ)かれる。で、『お前、どこの?』って聞かれて、『あ、自分はどこどこの人に面倒見てもらってます』って言うと、『じゃあ、行っていいよ』って。そんな感じなんで、子どもでも何かしらのケツ持ちをつけないとやっていけなかった」
「“カンパ”の理由は因縁みたいなものも多くて。『飲み会やるから来い』『はい』『ここ座れ』『はい』『タバコ吸うか?』『はい』。で、次の日になったら、『お前のタバコのせいでダウン・ジャケットに穴開いたから5万円、持ってこい』みたいな。今考えるととんでもねぇ野郎だなって」
“カンパ”の要求はひっきりなしにあり、少年たちは追いつめられていった。彼らは資金を賄(まかな)うため、ひったくりや空き巣といった犯罪に手を染めるようになる。
「オレオレ(詐欺)とか頭を使う犯罪は川崎の不良はやらないっていうか、身体を使ってナンボみたいな。そもそも、オレオレは上(組織)が動かないといけないじゃないですか。こっちの先輩は下にどれだけカンパを回すかしか考えてなかったんで」
「オレなんか、職人をやって金を調達しようと思ったら、『お前、何勝手に働いてんだよ!』ってシメられて。むちゃくちゃですよ。で、『筋が違(ちげ)ぇんじゃねぇか』って言うから、どういうことかと思ったら、『オレのところで働けよ』って。でも、そこで働いたら働いたで食い物にされるわけで」
「オレは深夜にタバコ屋のシャッターをこじ開けて、レジごと盗むっていうのをやってたんですけど、同じところで繰り返してたら、ある晩、店員がバットを持って暗闇(くらやみ)に潜んでて。友達がフルスイングで顔面殴られてぐしゃぐしゃになってましたね」
「優勝したら川崎の外の大人が守ってくれる」
やがて、2WIN(BAD HOPを率いる双子の兄弟、T-PablowとYZERRによるユニット)の家の周辺では、連日、神奈川県警察航空隊のヘリコプターが飛び回るようになる。そして、BAD HOPが中学校3年生の時、彼らを含む20人ほどが一斉逮捕。罪状はひったくりや空き巣など数十件に及んだというが、それは氷山の一角だという。また、そのようなしがらみは、結局、T-Pablowが「高校生RAP選手権」で2回目の優勝を果たす13年頃まで続くことになる。2WINは言う。
「『優勝したら、川崎の外の大人が守ってくれるよ』って言った人がいて、そんなわけないと思ってたけど、実際、そうなった」
「それまで、まともな大人と話す機会がなかったんで。川崎の大人に相談しても、『やっちゃえばいいじゃん』みたいなことしか言わないから」
「昔は大人が嫌いでしたもん。先生に相談しても無視だし。警察に被害届出しに行ったら、その後、ヤクザに絡(から)まれて。『お前、うたった(密告した)ろ? そこ(警察と暴力団)つながってねぇわけねぇじゃん』って。東京の音楽業界の人たちと知り合って、『あ、これが本当の大人なんだ』とわかった」
彼らは、ラップを通して、川崎の外にも世界が広がっていることを知ったのだった。
「これまで、自分らのテリトリーは川崎駅までだったんですよ。そこを一歩でも越えると、感覚としては“外”になる。ラゾーナ(駅直結のショッピングモール)の奥にドンキがあるんですけど、そこすら行かない。家から10分、15分とかで移動できる場所がコミュニティで、輝ける場所。いくら不良として名が通ってたといっても、橋を渡って、大田区とか鶴見とかに行ったらもう自分の名前なんか利(き)かなくなる。でも、今だったら沖縄に行っても北海道に行っても名前を知ってくれてる人がいる。視野も広がりましたよね」
YZERRがそうまとめると、「でもさぁ、東京のヤツらって友情が薄くない? やっぱり、川崎はそのへんが濃いからいいよなぁ」と酔っぱらった仲間たちが口々に言い、どっと笑いが起こった。楽しそうな彼らの表情は、まだ幼いようにも、まるで引退したベテラン・アウトローのようにも見えた。川崎駅周辺は夜に飲み込まれ、ネオンが街の別の顔を浮かび上がらせている。
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