今季のラブコメは変化球ばかりでキツい 「レンアイ漫画家」「恋ぷに」…対等な恋じゃないことが気になる

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 恋をしている人の話を聞くのが好きだ。たいていが驚くほどバカになっとるから。どんなに聡明で知的な人でも、恋をすると愚かになる。強い人でも弱くなる。人類から知性と理性を奪うのが恋。恋ってすごいよね。

 その愚かさにある程度の共感と苦い教訓をもたせつつ、新奇性のある設定で魅力的な人物を描くのがラブコメ。恋の行方がメインのはずだが、そこよりも別の案件が気になって恋どころじゃなくなるドラマもある。

 まずは、人間嫌いで引きこもりの大御所人気少女漫画家が貧困女性を金でドブ漬けに……もとい、漫画のネタのために貧困女性の頬を札束で叩(はた)いて疑似恋愛をさせる「レンアイ漫画家」(フジ)。演じるのは鈴木亮平。気難しさと無愛想が意図せず威嚇と脅威になっちゃって。大胸筋をはじめ、鍛え上げられた筋肉たちは陽の光を浴びたがっている。この陰の役は黒歴史確定。

 一方、金に釣られて安請け合いする貧困女子を吉岡里帆。吉岡なら大富豪漫画家なぞ手玉にとって容易に転がせると思っていたが、そういう役ではない。ダメ男ホイホイで頑張り屋……吉岡のポテンシャル下げてどうする。恋の行方よりも主従関係や雇用形態、住所不定無職の貧困女性がドブ漬けから抜け出す方策を考えてしまう。妙に大人びて気遣いできるのが逆に心配な甥っ子(岩田琉聖)がどうか幸せになれますように。

 ここまで恋が行方不明ではないものの、ファンタジーに面舵をきりすぎて、リアルな共感が行方不明になっちゃったのが「恋はDeepに」(日テレ)。「恋ぷに」の省略形はうまい。山田君、座布団1枚。リゾート施設開発で海の生態系が破壊されるのを阻止すべく、人間界に上陸したのが海の魔物の石原さとみ。久々に優しい顔の綾野剛がラブコメに登場したのに、よりによって人魚姫ファンタジー。アンデルセンか。石原もうるうる湿って、ウツボやカサゴとしゃべっとる場合じゃない。このふたりだったら現代社会の世知辛い恋愛モノをやってほしかったな。

 もちろん環境保護は地球規模で取り組むべき課題だと思うし、正論だよ。でも、芸のない勧善懲悪は青臭いうえに説教臭いので古い。

 恋の行方よりも石原の正体が気になる。魚ではなさそう。ウミガメか? クリオネ? ダイオウグソクムシか? 関心はそこのみ。

 最後はこれまたファンタジー。人気覆面漫画家(麻生久美子)が飛行機事故で亡くなるが、魂がおじさん(井浦新)の体に乗り移る、「あのときキスしておけば」(テレ朝)。「を」は入れないのか……1音不足感がない? まずそこが気になる。

 漫画の大ファンである青年(松坂桃李)が札束で頬を叩(はた)かれて世話係に……もとい、麻生に助けてもらった恩と漫画リスペクトで隷従。ん、これは恋なの? 死後、乗り移った井浦が松坂にまとわりつく絵ヅラは、テレ朝が妙に固執しては失敗しているBL風。亜種BLというか、似非BLというか。

 3作とも、人間として対等な立場で恋をしていない。王道だけでは飽きるが、変化球の盛り合わせもキツイ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年6月3日号掲載

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