緊急事態宣言下の東京から山形や秋田に“越境飲み”に行く人の心理状態

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「習慣化」の功罪

 あの時は「ギャンブル依存」が問題となった。新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(社会心理学)は、「『越境飲み』や『路上飲み』をしてしまう人は、アルコール依存とまでは言えないでしょう」と指摘する。

「アルコールに強く依存している人は、目を覚ますと酒を口にすることも珍しくありません。外出せず家で飲み続け、酒が切れると飲酒運転で買いに行って、警察に逮捕されるというケースは、地方都市で特に見られます。『越境飲み』や『路上飲み』をしてしまう人たちは、朝から酒を飲んでいるわけではありません」

 依存が原因ではないのなら、理由として何が考えられるのか。碓井教授は「習慣を禁じられても、人間は相当な苦痛を感じるものなのです」と言う。

「昨年の緊急事態宣言ではジョギングの自粛が求められました。ジョギングを趣味にしている人は、『出社前の早朝』とか『土日は自宅近くの河川敷』などと、走る日時や場所を習慣化させている人が珍しくありません。人間は習慣化されたことを繰り返すと、気分が良くなるのです」

 会社や学校に行くのが嫌だなと思うことは珍しくない。だが、毎日きちんと通勤や通学したほうが、最終的には気分が良くなるのも「習慣」の力だという。

「大義名分」の効果

 越境飲みを報じるニュースを見て、「わざわざ他県に酒を飲みに行くなんて信じられない」と呆れるのが真っ当な反応だろう。とはいえ、ジョギングの自粛が求められた昨年、公園などを走っている人は少なくなかった。

「何かの理由で、都内で喫茶店の利用が自粛を求められたと仮定します。喫茶店でケーキを食べることが大好きで、それが習慣化している人は、こっそり他県の喫茶店へ向かうに違いありません。もちろん『越境飲み』や『路上飲み』が防疫上、問題のある行動なのは言うまでもありません。擁護するつもりは全くありませんが、『1日の終わりをスナックで飲んでストレスを発散する』という習慣は、なかなか止められないのが人間なのです」(同・碓井教授)

 失われた“習慣”を求めて東北に出かけたり、コンビニ前で酒を飲むというわけだ。更に緊急事態宣言における「大義名分」を感じにくくなっているという背景もあるようだ。

「『大義名分』は人間の心理や行動に強い影響を与えます。医師から『タバコを止めなさい』と言われても吸い続けた人が、孫娘から『止めて』と頼まれたら禁煙したという例は珍しくありません。自分の健康などどうでもいいと思っている人でも、『家族の助言には耳を傾けなければならない』という大義名分には従うわけです」(同・碓井教授)

 日本人は一丸となって新型コロナウイルスの感染予防を徹底しよう──昨年の緊急事態宣言が機能したのは、この大義名分を信じる人が多かったからだ。

「ところが、政府のコロナ対策に批判的な世論が多くなってくると、習慣を我慢できない人が増えていきます。大義名分が弱まると、『理屈付け』が容易になるからです。『オリンピックをやるんだから、路上で飲んだって平気だろう』、『山形で酒を飲めば、地元経済は潤うはずだ』と本来は正しくない行動を正当化してしまうわけです」(同・碓井教授)

デイリー新潮取材班

2021年6月1日掲載

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