「なぜ母国のサッカー選手を応援しないのか」抗議していた在日ミャンマー人たちの思い
「三本指」の意味
彼らのこうした声が届いたのか、試合開始前の国歌斉唱で、控え選手の一人が軍への抵抗の意を示し、「3本の指」を立てていたことも話題になった。由来は、架空の独裁国家を描いたハリウッド映画「ハンガー・ゲーム」の中で、民衆が“抵抗の印”として掲げていたポーズだ。ミャンマーの政治犯支援協会によれば、5月28日現在、国軍による弾圧で市民の犠牲者は833名にも達するという。タイや香港でも民主化運動の中で定着し有名になった、この「抵抗」のポーズを取った選手は、帰国後、どのような目に合うのだろうか。
日本とミャンマーとの文化交流を進めるNPO法人の理事長を務める落合清司さんは、在日ミャンマー人たちが起こした行動について、このように代弁する。
「スポーツをクーデターに結びつけて反対するのはおかしい、純粋に試合を応援するべきだと考える日本人もいるかもしれません。もちろん、彼らもそういう考えを理解しているし、日本人に対して申し訳ないという気持ちも持っています。ただ、彼らは今回の国際試合の実現によって、軍の支配が既成事実化することを恐れているのです。今、国軍の支配は安定に向かい、ヤンゴンは平和になってきたという声が聞かれるようになりました。けれど、それは恐怖で市民を抑え込んでいるだけのこと。それをいいことに国軍は、このように海外にサッカーチームを派遣するなどして、国際社会に正常化をアピールする狙いがあるのです」
日本であった報道規制
クーデーターが起きた2月頃は、日本での抗議活動が盛んに伝えられていたが、最近はあまり聞かれない。だが、デモは現在も続けられており、5月20日には、40代のミャンマー人が大使館の玄関をペンキで汚したとして、器物損壊容疑で逮捕される事件が起きた。
「ミャンマーで行われている『トゥエダベイッ』と呼ばれる、流血を模した赤いペンキを使っての抗議行動でした。5月6日の抗議デモで起きたのですが、大使館側から警視庁に被害届が出されたことで、大崎署が捜査に乗り出した。ただ、この件は一切発表されておりません」(警視庁関係者)
警察庁から警視庁へ報道対応しないよう根回しがあったのだという。
「警察としては、法に触れる事実があった以上、立件せざるを得なかったわけですが、あまり表沙汰にしたくなかった。間違って伝えられ、日本が国内での反国軍デモを弾圧していると捉えられてしまう恐れがあったからです」(同・警視庁関係者)
スポーツと政治を混同してはいけない。だが、スポーツを通して他国の人々が置かれた状況を理解しようという心構えは必要であろう。