蛙亭・岩倉美里が語る相方の“無敵”エピソード ネタを飛ばしても動じず、台本も無視

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スベっていたのに上から目線で話かけてきた相方

 ラジオにテレビに引っ張りだこのお笑いコンビ「蛙亭」でツッコミを担当する岩倉美里。ネタを飛ばしてもまったく動じない相方・中野周平の“無敵すぎる”エピソードとは。

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「なぁ! めっちゃ飛ばしとったな!」

 今日も私の相棒中野さんは、ネタの大事なセリフを飛ばしても謝らない。無敵だ。自分の事なのに、他人の事のように話す。最初は腹が立っていたが、今はあの瞬間だけトリオになっていたのではないかと思う程に、人ごとのように話すから笑ってしまう。

 中野さんとはコンビを組んで4月で10年目になる。NSCの相方探しの会という授業で私の大喜利を見た中野さんが「おもれかったなぁ」と、上から目線で声をかけてきてくれたのが最初の出会いだった。変な声だった。中野さんの大喜利はというと、とてもすべっていた。「アムロ・レイに声が似ていると言われます!」と言い、モノマネで答えていた。とてもすべっていた。アムロにこの事がバレないことを祈る。自分の結果はさておき、私に強気で話しかけてくるあたり、あの時すでに彼の無敵伝説は始まっていたのかもしれない。

 コンビを組み、3年目の頃まで二人でよくご飯に行ったり買い物をしたりしていた。その後にはネタ合わせをするのがお決まりだった。だがこの日々は中野さんに最愛の女ができた事により終止符を打つことになる。彼女のえりちゃんだ。現在まで7年間付き合っている。

 ある日ネタ合わせ中に信じられないくらい良いボケを私が思い付き、それに対するツッコミを中野さんが言い、二人で爆笑している時に中野さんに電話が来た。いつもなら出ないネタ合わせ中の電話に出たそうにしていた。私が、「もうあと少しで終わるからすぐかけ直したら?」と言うと、中野さんは「そうじゃな!」と言って、電話に出た。そうじゃな? 私と中野さんのそうじゃなは同じではなかった。日本語の難しさを教えてもらった日だった。一度めちゃくちゃかわいい女の子からアプローチを受けていて、私が「あの子と遊ばないの?」と聞くと、「必要ねぇんじゃ。えりちゃんに敵うやつなんかおらんのじゃ」とすごくかっこいいセリフを、すごく変な声で言っていた。頼もしい男だ。

時間、セリフ、すべてを無視

 去年の4月に事務所の所属が大阪から東京に移った。いろんなジャンルのお仕事をさせて頂けるようになり、毎日がとても充実している。中野さんも毎日楽しそうにしている。何よりだ。先日、すでに作って頂いた台本の通りにコントをやるお仕事があったのだが、そこで中野さんはまさかのほぼアドリブでボケを連発していた。みなさん笑ってくださっていたのでハイになってしまったのだろう。時間、セリフ、全て無視していた。怖かった。先方から割と台本通りにやってほしいと伝えられると、腰に手を当て、「なるほどですね。分かりました。それでいきます」と何故か自分が折れた感じを出していた。

 彼といると毎日が刺激的だ。今までは不安だった仕事も、中野さんの無敵の神経に頼ろうと思えることが増えた。賞レースの決勝で上手下手の袖に分かれて待機していた時に、拳を天に突き上げて微笑んできた顔は一生忘れない。冷静になれた。私の相棒はなんて無敵なんだろうと。

岩倉美里(いわくら・みさと)
1990年宮崎県生まれ。2012年に中野周平とお笑いコンビ「蛙亭」を結成。すべてのネタ作りを担当。

2021年5月29日掲載

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