巨人「亀井号泣」、「ノーノ―未遂」、「神ってる」…交流戦、ファンの記憶に残る名場面集

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“赤イチロー”の異名

 期待の若手が3試合連続V弾を放ち、“神ってる”の流行語を生みだしたのが、16年6月17~19日の広島vsオリックス3連戦だ。

 まず17日の1回戦、4対4で迎えた延長12回、広島は無死二塁のチャンスで4年目の背番号「51」、“赤イチロー”の異名をとる鈴木誠也が左翼席上段にサヨナラ2ランを放った。

 さらに翌18日も、鈴木は1対3とリードされた9回1死一、三塁、オリックスの守護神・平野佳寿のフォークを左越えに起死回生の逆転サヨナラ3ラン。2日連続の劇的勝利に、緒方孝市監督も「誠也がまたデカい仕事をしてくれたね。いや、本当にね。今どきの言葉で言うなら、神ってるよな」と興奮口調で語った。

 そして、この言葉がさらなる幸運を呼んだのか、奇跡は3日続けて起きる。19日の3回戦、4対4の8回に先頭打者として登場した鈴木は、カウント1-2から山崎福也の高めに抜けた133キロチェンジアップを、この3日間で最も遠い左翼席上段のコンコース席に叩き込み、三たび勝利の立役者に。自身初のシーズン二桁本塁打は、プロ野球史上初の連続サヨナラ弾を含む3戦連続V弾となった。

 以来、「神ってる」は、5番に定着して快打を連発する鈴木の代名詞となり、25年ぶりVに向かって驀進するチームも、勝利のたびに「神ってる」と形容されるなど、社会現象化。同年の流行語大賞にも輝いた。

 ちなみにこの言葉は、緒方監督の高校生の次女と小学生の長男が日常よく使っていたことから、親子一緒に遊んでいるうちに覚え、勝利監督インタビューの際につい口にしてしまったのだとか。

 遊びで覚えた言葉が、ニューヒーロー・鈴木の躍進を後押しし、チームに優勝をもたらすことになるのだから、世の中何が幸いするかわからない。

「命を取られると思って……」

 目の前で4番打者が三度も敬遠される屈辱を味わった“代役5番”が、最後の最後で男の意地を見せたのが、17年6月18日の巨人vsロッテだ。

 この日、敗れれば球団史上初の交流戦最下位に沈む巨人は、5番・阿部慎之助の2打席連続弾などで3点を先行したが、その阿部が3対1の6回、顔面付近を襲ったボールを避けようと倒れ込んだ際に、右膝を痛め、交代するアクシデントに見舞われた。

 5番には亀井善行が入ったが、8回にマシソンが鈴木大地に同点2ランを浴び、逃げ切りに失敗したことから、代役の立場も微妙なものになる。

 その裏、巨人は先頭の山本泰寛が四球で出塁し、勝ち越しの走者となるが、1死後、ロッテバッテリーは4番・マギーを敬遠し、亀井との勝負を選んだ。マギーの二盗で1死二、三塁とチャンスが広がったが、亀井は捕邪飛に倒れ、無得点に終わった。

 巨人は延長10回にも2死三塁のチャンスをつくるが、再びマギー敬遠のあと、亀井は空振り三振に倒れ、悔しさをあらわにした。

 そして、2点を勝ち越された12回、巨人は坂本勇人の二塁打で1点差に追い上げ、なおも1死二塁でマギーに打順が回ってきたが、当然のように三度目の敬遠。安パイ扱いに心が折れ、「最後打てなかったら、命を取られると思って……それぐらいの気持ちでいきました」と死に物狂いで打席に立った亀井は、大嶺祐太のフォークを拾い上げるように一振。打球は起死回生の逆転サヨナラ3ランとなって右翼席に突き刺さった。

 感極まり、泣きじゃくりながらダイヤモンドを1周した亀井は、ベンチ裏でポツリと言った。「負けたら全部僕の責任と思っていた。神様がいてくれた」。

 今年の交流戦でも、球史に残る新たな人間ドラマが生まれるだろうか、期待したい。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年5月26日掲載

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