圧倒的濃度の「大豆田とわ子」 クセの強い脚本と膝を打つセリフの応酬に、いい意味で“疲れる”

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 ひと昔前なら離婚は大ごとだったが、時代は変わった。可哀想でも不幸でもない。ドラマで泥沼のように描くのは古いし、実際はあっさりライトな離婚も多い。離婚経験が無駄に豊富な私としては、屁みたいなもの。我慢していたら体によくない。人生のガス抜きである。

 今期、離婚が前提のドラマはいくつかあるが、厄介で面倒くさくて面白いのが「大豆田(おおまめだ)とわ子と三人の元夫」。脚本家・坂元裕二のクセがとにかく強くて、「彼のネタ帳」と揶揄もあるが、私はどっぷり沼。火曜夜はいちいち膝を打つセリフの応酬に、正直どっと疲れている。脳が疲れるので、酒よりも甘モノが必須である。

 主人公はシングルマザーで住宅建設会社の社長。3度の離婚歴はあるが、幸せになることをあきらめない。会社人としての程よいきっちり感を保ちつつ、生活においては器用ではない抜け感も。3人の元夫と世間に対しては辛辣な塩対応。聖母でも菩薩でもない女・大豆田とわ子を松たか子が適温で演じる。「カルテット」「スイッチ」と合わせて松たか子3部作が完成した感も。

 元夫3人は、とわ子の心模様の経緯がわかる人選だ。

 1番目の夫を演じるのは松田龍平。レストランオーナーで娘(豊嶋花)の父だが、とにかく女にモテる。穏やかで沈思黙考の平和主義者に見えるが、最も厄介。心が読めなすぎてツライ。実際、心の中に別の女性がいると気づいて離婚に至る。

 2番目の夫は東京03の角田晃広が演じる。器が小さく、モテとは無縁。最もわかりやすくて優しい善人だし、気のせいか大沢たかおに見える時もある(老眼かな)。でも確かに胸躍らないし、未練がましさも強烈。

 そして3番目。反動で選んだか、若くて美しい岡田将生である。彼が弁護士になるまでは幸せな時間を過ごしたものの、性格がひねくれすぎていて社会不適応。黙っときゃイケメンなのに、ああいえばこういう。不要論で人の気遣いや社会の慣習を全否定する悪い癖。でも、だからこそ放っておけず、顧問弁護士として雇う。

 うわ、めんどくせーなと思いながらも、3人の元夫を愛でることができる構図に。

 でも全員フリーな大人だ。ちょいちょい恋愛が芽生えかけたり、騙されたり、巻き込まれたりと悶着が起こる。ただし、とわ子に近寄る男が軒並みクズというのもいい。世の中そう簡単には幸せを掴ませてくれない。

 3人の元夫に仕掛けてくるワケあり女たちも全員適役。女優役の瀧内公美、ホテル清掃の石橋菜津美、そして親友の彼女として登場した石橋静河。適役祭りだ。

 ハイソな大人たちの軽妙洒脱な毒舌で綴る恋愛&結婚礼賛モノ、ではない。恋愛を全身全霊で拒む人間が登場。とわ子の親友・かごめだ。演じるは女の自由度を広げてくれる市川実日子。

 彼女の存在意義は大きい。恋愛至上主義を唯一拒絶するのだから。しかも1番目の夫の心に住むのは彼女という皮肉。なんて罪深く意地の悪い話だ! だから好き。普通や当たり前を疑えという展開。そして枠から外れた人を置き去りにしない。だから響く。心に残る。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

2021年5月27日号掲載

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