年収億超えの小説家・松岡圭祐が「営業秘密」を公開 “誰にでもできる”創作技法とは

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 コロナ禍で「ステイホーム」が続いているとはいえ、突然「小説を書こう」と思い立つ人は多くないに違いない。しかし、人気作家が「営業秘密」と言うべき創作の秘訣を教えてくれるとしたらどうだろう。小説家・松岡圭祐氏が明かす、実践的な「執筆マニュアル」。

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 作家としてデビューして来年で25年になります。幸運にもヒットシリーズと呼んでいただける作品もいくつか出すことができ、日々感謝に堪えません。専業作家の年収が億を超えることも知りました。稼ぎのことを言うなんて無粋である、とお感じの方も勿論いらっしゃると思います。しかし私は「小説家は儲かる」という事実を、もっと世が広く知るべきだと感じるようになりました。

 というのも、「小説家は儲からない」といった風説ばかりが広まると、せっかくの才能ある人々が小説家になるのを断念してしまいます。それは文学全般をつまらなくし、出版不況に拍車をかけてしまいます。

 きちんとした手順を踏んで小説を書けば、小説家で儲けることは可能です。新著『小説家になって億を稼ごう』(新潮新書)は、執筆方法から契約の注意点、編集者との付き合い方、映像化への対応などを網羅的に解説した指南書です。限られた紙数で要約するのは不可能ですから、今回はまず長編小説を書いてみたいという方のために、本稿では最初に行うべき作業の手順をご説明させていただきます。

 ただちに取材を行ったり、執筆を始めたりする必要はありません。まずは脳内で物語を作り出すのです。その作業を私は「想造」と呼んでいます。小説づくりの肝は、執筆ではなく「想造」にあると思ってください。

 最初から長編? 臆する方もいるでしょうが、短編一本では出版のしようがありません。長編なら一冊の本になります。デビュー作(処女作)から印税を得る前提で進めるのです。

 なお小説の題名(タイトル)はまだ決めなくて構いません。どうしてもこれを使いたいという題名が頭に浮かんでいなければ、小説を書き進んでから考えましょう。

 いかなる物語も、人間が存在しないことには生まれません。よって登場人物をまず創作します。

 貴方の好きな俳優を7人選び、顔写真をネットからダウンロードしましょう。男女比は4対3としますが、男女のどちらをひとり多くするかは貴方の自由です。主人公の性別も同様です。これら俳優たちは、貴方の脳内で登場人物を演じるメインキャストになります。

 7人の顔写真それぞれに、貴方が考えた名前をつけましょう。電話帳など名簿から苗字と名を拾い、自由に組み合わせます。ただし登場人物同士の漢字は重ならないようにしてください。小説は氏名で登場人物を区別しますから、一見して分かるようにしておくべきです。

舞台設定による立体化

 全員を名付け終えたら、Wordの文書に画像を貼りつけ、その下に登場人物名を大書します。さらに身長や体重、年齢、出身地、職業など、プロフィールを設定していきます。

 この段階ではまだ、それぞれの登場人物がどう絡むか、相関関係などは考えず、また何が起きるかも予想せず、ただ貴方好みの登場人物ばかりを作りだしてください。今後「想造」段階と執筆の長い期間、ずっと脳内でつきあうことになるのですから、貴方にとって非常に気に入る存在にしてください。たとえ犯罪者の設定であっても、悪人なりに魅力を感じる人物にしましょう。のちに特定の登場人物について、あれこれ考えるのが嫌になった場合、原因はこの設定段階にあります。

 基本的なプロフィール以外にも、7人の顔写真を眺めながら、こういう性格だったら面白いと思えるようなことを足していきます。食べ物の好き嫌い、特技、趣味など、なんでも付け加え、画像と氏名の下に記入していきましょう。

 ただし「人生の目標」や「過去のトラウマ」などは掘り下げないでください。物語の可能性の幅を狭めるにはまだ早過ぎます。

 登場人物ひとりにつき1枚におさまるようレイアウトし、すべてプリントアウトします。7人の登場人物を、貴方の部屋のよく見える壁に貼りつけます。サスペンス映画に登場する、探偵の調査資料のようなものです。

 メインの7人が貼りだされたら、さらに5人、サブの登場人物を作りだします。メインほど華やかではないものの、ひと癖もふた癖もある脇役を揃えましょう。これらサブキャラクターを、メインの7人の下に並べて貼ります。

 このやり方は、それぞれの俳優の演技を思い描きやすいため、特に初心者に向いています。より現実的な小説にしたい場合は、ネットで一般人の画像を探し、自分が思い描く人物像に近い顔写真を選びだします。純文学の場合、こちらの方法が適しています。私小説で著者自身を主人公としたい時には、主人公の顔写真は載せず、プロフィールのみを記載します。脇役には顔写真を載せます。

 次に登場人物たちがどこで動きまわるのか、舞台を設定します。風景写真を3カ所、やはりネットからダウンロードし、12名の登場人物の下に貼りつけます。

 デビュー作は「自分の職業に基づいた話のほうがうまく書ける」とか、「自分の生い立ちを元にするべき」とか、いろいろ小説の作法を聞いたことがあるかもしれません。しかし今はそれらにとらわれないでください。「想造」で物語を構築するうち、貴方らしさは自然に出ます。

 12人の登場人物と、3カ所の風景が貼られた部屋で、しばし寝起きして過ごします。部屋にいる間はそれらを眺め、登場人物たちの動きを空想します。最初は何の脈絡もなく、AとBが街角で談笑しているとか、そこにCが割って入るとか、ただ情景を思い描くだけで構いません。そこから行動の意味を連想していきましょう。登場人物は誰と誰が友達で、新たに知り合うのは誰で、誰が揉めごとを起こすでしょうか。けっして「物語を作ろう」と力まず、貴方の脳内で登場人物たちに生命を与えてください。それぞれが自発的に動きだすのを待ち、さらにその行方を追うのです。

 壁には何も書き加えないでください。登場人物らの関係を、線で結んだりしないでください。まだメモもとってはなりません。何かを書けば「想造」はその形に固定化されてしまいます。少しぐらいなら後で消せばいいと思っていても、メモや書きこみはしだいに蓄積されていきます。ある程度の量に達すると、それでよしと自分を納得させてしまいがちです。しかしそれでは「想造」が第1段階のみの単純さに終始してしまいます。

 脳は徐々に「想造」に慣れていき、理性であれこれ考えるのではなく、本能的に夢中になれる段階へと突入していきます。もしそうならず、登場人物がうまく動きださないのであれば、それは貴方が悪いのではありません。キャスティングが間違っています。特に気に入らないキャラを剥がし、新たに別の登場人物を創造して入れ替えましょう。

 ストーリー作法などの理論は脇に置き、愛すべき登場人物たちの動きのみを追ってください。現代に生きる貴方には、フィクションのあらゆるパターンがすでに身体に染みついており、意識せずとも物語の序盤はできあがっていきます。理屈ではなく本能に従ってください。それが結果的に読者の脳をも魅了する物語になるのです。

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