猪瀬直樹・元東京都知事に訊く 「東京2020大会」開催の是非、小池知事はどうする?
森前会長の責任
もっと日本人が運動すれば、このギャップが埋まる。実現すれば医療費や介護費の抑制も期待できるようになる。
「オリンピックとパラリンピックが東京で開催されれば、多くの人がスポーツの素晴らしさを再認識するでしょう。特にパラリンピックは、障害を持ちながらスポーツに挑戦する姿を目の当たりにできます。高齢者の皆さんが『自分たちも身体を動かそう』と意欲を持つきっかけになってくれるはずです」(同・猪瀬氏)
ところが、東京五輪の思想や意義を語る場面は減少した。猪瀬氏は「大会組織委の会長に森喜朗さんが就任したことがマイナスの影響をもたらしていると思います」と指摘する。
「世論調査で東京五輪を支持する意見が少ないのは、森前会長の責任も大きいと言わざるを得ません。東京五輪を開催する意義を、思想として積極的に発信しようとする姿勢に欠けていました。予算を厳しく管理するどころか、膨張させてしまった。国立競技場やエンブレム問題といった不祥事が連続したのも、森前会長のガバナンス(統治)が欠如していたことを浮き彫りにしました」
森前会長への批判をタブーとしていた大手メディアの責任も大きい。
「五輪返上」報道
組織委の会長には当初、「トヨタ自動車の社長、会長、名誉会長などを歴任した張富士夫さん(84)に依頼。非公式に内諾を得ていたのですが……」(同・猪瀬氏)という。
張氏からは好感触も得たが、実現しなかった。もしコスト管理に精通した財界人が責任者となっていたら、予算の膨張は抑え込まれ、準備も円滑に進んだかもしれない。
「コロナ禍ですから、東京五輪に厳しい目を向ける人は、当然いるでしょう。とはいえ、国立競技場やエンブレムといった不手際が起きず、予算を抑えた“コンパクト五輪”が計画通りに準備できていたとしたら、今ほどの反対意見は出なかったのではないでしょうか」(同・猪瀬氏)
本来なら開催都市のトップである小池百合子都知事(68)が、東京五輪の意義や思想を発信することが求められているという。だが、それは望み薄なのかもしれない。
何しろ東京五輪の開催に力を入れるどころか、「中止するのではないか」という報道が後を絶たないのだ。報道の一部から、見出しだけをご紹介しよう。
◆「小池百合子 五輪中止ムードで『大ちゃぶ台返し』炸裂の予感」(FRIDAY DIGITAL:5月9日)
◆「小池都知事が側近と“密議”『東京五輪返上』で頭がいっぱい」(日刊ゲンダイDIGITAL:5月11日)
◆「五輪、都庁に危機感=くすぶる小池氏『中止表明』説-宣言下、減らぬ感染者」(時事通信行政ニュース:5月15日)
◆「検証:広がる五輪懐疑論 開催可否で政局、聖火は尻すぼみ」(毎日新聞:5月16日)
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