北川景子、永山瑛太のドラマ「リコカツ」が好評である3つの理由

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米津玄師の歌とともに

 つい設定のリアリティを掘り下げてしまったが、そこも含めて、このドラマが好評である3つの理由を考えてみた。

 ひとつは離婚がテーマではあるけれど、ラブコメとしての「ロマンスの山場」を作っている点。瑛太と北川は離婚をすると口論しながらも、お互いの長所に徐々に触れあっていく。そして、毎回終盤で米津玄師の歌とともに「見せ場」があるのだ。

 初回はまさかの「階段落ち」。瑛太が北川を守るべく抱きかかえて、米津が流れる中、ダーッと背中で滑って階段落ち。

 第2話では、山で遭難しかけた北川をダサボールペンのライトで探し当てる瑛太。ぎゅっと抱きしめて「二度と俺のそばから離れるな! 乗れ!」なんつって、おんぶして救助。米津流れる。

 第3話では、関係修復の可能性を見せつつ、北川が「まだあなたの妻だから」と言う。ハート型の風船がブワーッと空に飛んで、瑛太がバックハグ。米津流れる。

 第4話では、離婚回避の方向へ急展開。「君が傷つく姿は見たくない」「君をひとりにしない」つって瑛太が北川を抱きしめる。米津流れる。

 もうこうなると、視聴者はパブロフの犬。米津が流れてきたら「ほれきた、米津! ロマンチックなシーン、くる? くる?」とよだれは垂らさないまでも身構えるワケよ。ところが、第5話では意表を突いてきた。離婚届に判を押すシーンで、まさかの米津。うまいなと思う。米津の歌もうまいし、その歌声にのっけて見せ場を作るのもうまい。この時点でTBSの思うツボ。

離婚に向かうのは1組だけではない

 ふたつめは、瑛太と北川に対して、それぞれ思いを寄せる人物がいる点。北川には元カレの弁護士役・高橋光臣が、瑛太には航空自衛官の上官役・田辺桃子がいる。高橋は律儀に、節度ある接触なのだが、田辺は最初から瑛太への激しい好意と、北川への敵意をむき出しにする。人命救助が任務の自衛官にあるまじき行為(山中に放置)までしれっと敢行。夫婦の離婚を願う人間も描くことで、ラブコメに必須の毒を盛っている。負の感情も描かないと、奥行きが生まれないしね。

 そして3つめ。離婚に向かうのが1組だけではないところだ。瑛太の両親(酒匂芳と宮崎美子)と、北川の両親(平田満と三石琴乃)も同時進行で熟年離婚へと向かう。自分たちの離婚の前に、まずは親の離婚を止めようと画策するふたり。そこで夫婦の「埋められない溝」や「簡単にはほどけない絆」に気づかされる。親のフリみて我がフリ直せ、の構図に。

 そう簡単には離婚しない・させない・できない背景と、踏み出せない心の葛藤。惚れた腫れたの単純なラブコメではなく、夫婦の間に溜まった澱もこそげとって見せつけるような、えげつなさもある。伝説のTBS金曜枠が好きだった意地の悪い大人をそれなりに満足させてくれるのだ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月21日掲載

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