大半が2年で消える「K-POP」アイドルグループの熾烈なキャラ戦略 BTSが使った「黄金の一手」とは
飽和状態のグループコンセプト
パク・ヒアさんは昨今のK-POPグループのコンセプトの変化についてこう話す。
「以前はリリースのたびに話題を狙い、明確なコンセプトを各グループが視覚化していました。覚えやすいポイントダンスを取り入れ、特徴的なヘアメイクと掛け合わせ、他社と明らかに差別化できるキャラクター設定がなされていたのですが、アイドルが増えていくにつれコンセプトも飽和状態になり、アイドル自身が凝りすぎたコンセプトにがんじがらめになっていきました」
BTSのロゴに隠された意味
「世界で一番売れている」K-POPグループ、BTSのグループコンセプトはどうだろうか。彼らは2013年のデビュー以降、10代の学生が感じる悩みや鬱憤について、同世代である彼ら自身の言葉で伝えた「学校三部作」、20歳を超えて社会に直面し、不確実な未来に不安を抱く姿を描いた「青春三部作」などと、ひとつのコンセプトをもとにした連作を発表し続けてきた。2020年の「LOVE YOURSELF」シリーズでは、苦悩を乗り越えた先の、「本当の愛は自分を愛することから始まる」という「セルフラブ」や「自己肯定感」をテーマに新たなフェイズに向かっている。生身の彼らの「成長」を一貫して楽曲にストレートに反映し、成長による変化をそのままBTSというグループのアイデンティティとしているのだ。
2017年、BTSはグループのブランドアイデンティティを一新し、扉の形のようなシンボルロゴを発表した。手がけたデザイナーは『月刊デザイン』(2018年)のインタビューで、「BX(ブランド体験)デザイン」という言葉を使っていた。私もデザインの仕事をしているので、UI(ユーザー・インターフェース)、UX(ユーザー・エクスペリエンス)には馴染みがあったが、BXデザインが「完璧なアイデンティティを構築するブランディングのみに終始せず、顧客のブランド体験全体を想定したデザイン」のこととは知らなかった。
刷新されたシンボルロゴはBTSを各単語の頭文字にかけて、「Beyond The Scene」と新たに定義してデザイン化したもので、「現実にとどまらず、成長するためにドアを開けて前に進む青春」を意味している。ドアの隙間から光が漏れ出てくるようなデザインは、それを開けるメンバーたちとその外で待っているファンたちとのつながりを視覚化したものだ。BTSはポップアップストアでも客を楽しませるストーリー体験型の構成が素晴らしいのだが、ロゴのデザインひとつとってみても、「成長」という彼らのストーリーの核を端的に表現しているのだ。
BTSが使った「黄金の一手」
パク・ヒアさんも、パッと見ただけで楽しめるようなコンセプト作りがこれからの課題だと話す。
「BTSがうまくいった理由を挙げるなら、『青春』というひとつの普遍的なテーマを活動を通じて変化させ、『成長する青春の姿』をファンに見せてきたことです。つらい状況から抜け出そうともがく成長のストーリーは外国の人にも直感的でわかりやすい。
その黄金の一手をBTSがK-POPで最初に使ってしまったので、他のグループのコンセプトは必要以上に複雑化してしまいました。デビューした新人を毎週何組も見ていますが、もはやコンセプトが複雑になりすぎていて、ステージの魅力だけで伝えたほうが良いのではと思うグループもあります。良い曲や振付があってこそ、ストーリーテリングによるコンセプトの価値が出てくるのです」
コンセプトはアイドルへの共感や没入のトリガーになりうるが、あまりに複雑だとかえってファンと距離を作ってしまう。コンセプトはあくまでアイドルの魅力を引き出すスパイスの役割を果たすべきで、その絶妙なバランスは今もなお模索中だ。
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