インド株は日本人の「ファクターX」から逃れる? 専門家は「実は致死率が低い」
「ファクターX」から逃れる能力
英国株の次はインド株が猛威を振るう、と喧伝されるが、そもそもインド株の特徴とはどのようなものか。また、専門家は「実は致死率が低い」と指摘する。
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ウイルスは一般に変異を繰り返すので、冷静に考えれば、変異株の出現は想定内の事態のはずである。とはいえ、日本でも英国型変異株の出現で、いまも新型コロナウイルスの新規感染者数が減らないことは、多くの人には想定外だったのではないだろうか。
そこにインド変異株が、新たな脅威だと喧伝されている。一時は感染が収まり、集団免疫を獲得したとさえ言われたインドでは、4月以降、感染が爆発的に広がり、5月7日には1日の新規感染者数が41万人を超えた。この数字をメディアが反復するので、恐怖心を抱くのも無理はない。
しかし、本誌(「週刊新潮」)は繰り返し述べてきたが、大切なのは敵の正体を冷静に見極めることである。健康と命を守りたいあまり情報に惑乱されてしまっては、かえって命とりになりかねない。
そうはいっても心配な情報は日々供される。その一つが、東京大や熊本大の研究チームが、インド株のL452R変異は、日本人の6割がもつ白血球の型HLA-A24がつくる免疫細胞、いわゆる「ファクターX」の一部から逃れる能力があるという実験結果を発表した、というものである。
インド株の特徴は
ウイルスが免疫から逃れるなら、ワクチンは効かず、何度でも感染するのか、と心配になるが、まずはインド株の特徴を押さえたい。
「注目すべきはL452RとE484Qという二つの変異。1200ほどあるウイルスのアミノ酸のなかで、これら400番台はスパイクの部分に関わるので、人体への感染のしやすさ、細胞の受容体へのくっつきやすさが変わってきます」
と話すのは、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授。また、埼玉医科大学の松井政則准教授は、
「インド株内のL452Rは免疫を低下させる可能性が指摘されています。本来、キラーT細胞という免疫細胞が反応してウイルスを攻撃するのですが、変異があると、キラーTがウイルスをうまく認識できず、細胞性免疫が働かなくなる。このキラーT細胞をつくる白血球の型の一つがHLA-A24で、これを日本人の6割がもつと言われているので、日本人も危ないという話が出ているのです」
と説明する。すでに国内で数十件確認されているインド株。免疫から逃れるという点は間違いなさそうだが、そこで思考を停止してはいけない。先に挙げた東大との共同研究に携わった熊本大学およびヒトレトロウイルス学共同研究センターの上野貴将教授は、
「インドで感染が収まらないのはインド株のため、と見て間違いなさそう」
としたうえで説く。
「HLA-A24は日本人の6割がもつ白血球の型ですが、インド株はそこから逃れるから日本人はうつりやすい、とは言えません。人間の体内にはHLA-A24のほかにも白血球が存在し、多い人で6種類ほどあります。また、免疫のターゲットは一つのウイルスや細菌だけでなく、もっと広範囲の異物に反応します。だからHLA-A24も、コロナウイルスのL452Rとは別の部分に反応してくれたりもする。私たちが示したのも、L452RはHLA-A24から逃避する可能性がある、ということで、HLA-A24から逃れたとしても別の免疫が反応したりするので、人体が無防備になるわけではないのです」
慌てる話ではない、と訴えるのである。
41万人という1日の新規感染者数も、13億6640万人というインドの人口を考えると、必ずしも莫大とは言えない。1月に1日6万8千人の感染者数を記録したイギリスの人口は6680万人と、インドの20分の1。インドの人口で換算すれば、1日136万人の新規感染者が発生していたことになる。
「実は致死率が低い」
さらには、インド株は、
「実は致死率が低い」
と説くのは、ミュンヘン工科大学と共同の医療統計解析によりその事実を示した、東京大学AI生命倫理・疫学解析研究コア統括責任者の伊東乾氏である。掲載のグラフについて、
「勾配が急な線は、昨年10月から今年2月の従来株への感染者数と死者数の相関を示し、緩い線は今年2月から4月23日までの、同じ相関を示しています。後者のほうが感染は広がりやすい代わりに、致死率が少ないことがわかります」
と説明して、言う。
「インド変異株が危ないという声を耳にします。“危ない”とは“蔓延しやすい”ことだと思いますが、インド株の致死率は低い。今年1月の新規感染者に対する死者の割合を示した致死率は、米国が1・3%、ブラジルは4%にもなりますが、現在のインドは約1%。死体や糞便を流すというガンジス川で沐浴しても、この程度で済んでいる、と考えるべきです。われわれも冷静に対処し、いままで通り手洗いやうがいを欠かさず、人ごみを避ける、という対策を続けていくことに尽きます。変異株を侮ってはいけませんが、パニックになる必要はありません」
そして、こう加える。
「ウイルスは宿主を殺してしまうと感染が広がらないので、体内に侵入しやすいようには進化しても、それほど毒性が高くないものが生き残ります。今後も変異株が次々と現れる可能性はありますが、適者生存で生き残りやすいものが増えていくので、冷静に対処していくことが大切です」
劣悪な衛生環境
さらに納得するためにインドの現況を聞こう。第4の都市、バンガロール在住の50代の日本人男性は、
「2月ごろは収束した雰囲気で、ガンジス川での沐浴も行われ、マスクをしない人が多かった。それが4月から感染爆発し、私も4月半ばにワクチン接種の際の検温で引っかかり、PCR検査をすると陽性で、下痢を伴ったので変異株だったようです。肺には問題なく、もう復帰できましたが」
と言って、説明する。
「トイレも日本並みに清潔なものはごく一部で、全体の約3割を占める中間層の家庭では、日本の20年前の公衆トイレのようで臭いもすごい。大多数を占める低所得者層の半数は家にトイレも洗面所もなく、トイレがあっても劣悪な状態です。しかもトイレ掃除も手洗いも習慣化されていません。空き地や海、川で排泄するのは普通で、以前住んでいたチェンナイでは、ビーチで多くの人が排泄し、沐浴していました」
多重変異はインド株以外にも多く存在
この話を受けて、生体防御学の権威、大阪市立大学名誉教授で現代適塾塾長の井上正康氏が指摘する。
「コロナウイルスの受容体ACE2は、肺などよりも腸に多く存在するため、便とともに多量のウイルスが排出されます。衛生環境が悪い地域が多いインドでは、排泄物による感染リスクは非常に高いと考えられます。私もインドに行ったことがありますが、エリアによっては日本がいかに清潔かと思い知らされました」
そのうえで、恐れすぎに警告を発する。
「インド株は二重変異株ということで騒がれていますが、この1年で1万株以上の変異が現れており、そのなかには多重変異も多くあります。いまさら騒ぎ立てることではありません。日本にもすでに相当数のインド株が入っていますが、重症化率も死亡率もほとんど変わっていません。いまの日本で主要となりつつある英国株は、いずれ感染力がより強いインド株に上書きされるでしょう。しかし、そのために多くの人が死ぬわけではないのです」