BTS(防弾少年団)も例外ではない――韓国の「兵役」がもたらす刹那的男性アイドル
普通なら20代前半に済ませるが
本来、入隊は20代前半のうちに済ませる、というのが韓国では一般的だ。大学2〜3年くらいで休学して兵役に就くパターンが多く、そのためか25歳前後で大学を卒業する男性が多い。韓国では大卒の新入社員の平均年齢は30歳を超えていて、新卒の求人でも卒業年度に対する縛りがないように感じる。兵役を若いうちに済ませるのは就職後のキャリアへの影響を最小化したいからで、逆に兵役義務を果たしていないと就活に不利に働く。私が勤めていた会社に写真家志望の19歳の男性がやって来たとき、同僚たちは口々に、ちゃんと働き始める前に兵役に行ってきなさい! と勧めていた。
デザイナーである筆者が韓国で就活した際、履歴書に「兵役」の記入項目があったのも驚きだったが(もちろん女性は記入不要)、その後の職場で男性同士、上司が部下に対して「お前もっかい軍隊行ってこい!」と叱咤し、飲み会の席では「軍隊の意地見せてやれ!」と叫んで女性陣がドン引きする……みたいな場面もなつかしく思い出される(韓国の飲み会の席で女性陣が冷める一番の話題は軍隊話だと思う)。少なくとも、兵役を経験した多くの男性にとって厳しい経験を乗り越えたことが誇りになって、それが独特なマッチョイズムとなって韓国社会のさまざまなシーンにも表出していると感じる。もちろんそんなムードに息苦しさを感じている男性も多いわけだが、訓練が厳しいことで有名な海兵隊に志願した「愛の不時着」のヒョンビンや、軍事境界線すぐそばの最前線で軍務を果たした俳優のソン・ジュンギに対して世間がポジティブな評価をしていたことも記憶に新しい。
BTSのための「国民請願」運動
話が脱線したが、アイドルの場合、10代は練習生(芸能事務所に所属するアイドル候補生)としてデビューに向けて全力で準備し、デビュー直後も知名度を上げていく大事な時期で、人気が定着するまでは兵役なんて論外だ。すると必然的に徴兵対象年齢のギリギリ(つまり満28歳)まで行かない、という選択になる。しかしそうすると、兵役に行く頃にはちょうどデビューから数年経っていて、その人気は飛ぶ鳥を落とす勢いだったりすることも多い。
そんな最中の兵役をきっかけに、ファンが離れたり、グループの休止や解散の危機に見舞われることもあり、アイドルにとっては非常に切実な問題である。
2019年には、世界的に活躍するBTSメンバーの兵役免除を求める動きが起きた。韓国には国民が政府に対して要望や苦情を専用の掲示板に書き込める「国民請願」というシステムがあり、20万人以上の請願には大統領府が正式回答を出さなければならない。そこに多くのファンが投稿したのだった。オリンピック選手やクラシック音楽家など、芸術・スポーツの分野で好成績を残した者に対しては「芸術・体育要員服務」(4週間の基礎軍事訓練だけ受ける)という事実上の兵役免除のようなシステムがあるのだが、成績が明確にわかる国際大会などないアイドルグループに適用するのは難しいとされてきた。そんななか、2020年12月に「国内外で韓国のイメージを大きく向上させたと文化体育観光部が認めたアーティスト」の兵役を30歳まで延期できる法律が成立し、BTSメンバーの兵役延期が実質的に決まった。日本でもニュースになるほど異例の出来事だった。
[2/3ページ]