茨城一家4人殺傷、犯人の異常行動を見過ごした両親 ナイフ71本を買い与え、モンスターを放置
茨城県境町の一家4人殺傷事件で、殺人容疑で茨城県警に逮捕された岡庭由征(おかにわよしゆき)(26)。岡庭容疑者は16歳のときに“通り魔”事件を起こしているが、このときの供述調書には、歪んだ「性的サディズム」と異常行動を放置し続けた両親の無責任が記されている。
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――A子さんを刺した包丁は持ちかえりましたか?
「それはそうです」
――しまう前にその包丁に何かしたりしましたか?
「血ついてるから見ていた」
――どこで見たんですか?
「自分の部屋で」
――見る以外のこともしましたか?
「舐めたりというか」
――包丁についている血を舐めたということ?
「少しは」
――どうやって舐めたんですか?
「舌で」
――手にとって舐めたのか、包丁の刃を舐めたのか?
「刃です」
――血を見たり、血のついた刃を舐めたりしてどんな気持ちになりましたか?
「興奮したというか、何か刺した時を思い出したみたいな」
――興奮というのは性的な興奮をしたということ?
「そうです」
――性的に興奮して、自慰行為、そういうことをしましたか?
「そうです」
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これは、岡庭容疑者の供述調書、すなわち、法廷での彼の陳述を記録したものである。岡庭容疑者が16歳の時に面識のない女子中学生と女子小学生を刺す事件を起こしていたが、その公判で彼はかくも異様な証言をしていたのだ。
岡庭容疑者が凶行に及んだのは2011年11月18日午後5時40分頃。埼玉県三郷市で下校途中の中学3年の女子生徒(当時14歳)に自転車で背後から近づき、いきなり顎のあたりを包丁で刺した。さらにその約2週間後の12月1日、今度は千葉県松戸市で小学2年の女児(当時8歳)の脇腹を繰小刀で刺した。そして、12月5日に殺人未遂などの容疑で逮捕され、「歩いていた人を殺そうと思っていた」と供述した岡庭容疑者。殺そうと思っていた理由は、冒頭の陳述からも分かる通り、性的快感を得るためだったわけだ。
無論、逮捕時16歳だったことから少年法に護られ、実名や顔写真はどこにも報じられず。それ故、当時は岡庭由征ではなく、岡庭吾義土(あぎと)という名だったことは、周知されるに至らなかった。この連続通り魔事件で起訴された岡庭容疑者は、刑事裁判を経た上で医療少年院に送致され、社会に戻った。そのどこかの段階で吾義土という名を捨て、由征になったのであろう。しかし、名が変わっても中身は何も変わっていなかった。社会に戻ってそれほど時をおかずに茨城県で無辜の夫婦の命を奪った疑いで逮捕されたことが、そのことを証明している。そして、医療少年院で施されたであろう「矯正教育」や「治療」が失敗に終わったことも――。
祖母に溺愛され…
安易に社会に放ってはいけなかった怪物は、いかにして形作られたのか。それが分かる資料が手元にある。
すでに触れた通り、岡庭容疑者は刑事裁判においては刑罰を下されるのではなく、「保護処分」との結果となった。実はその後、通り魔事件の被害者の女子中学生と両親が、岡庭容疑者と両親に対して約2700万円の損害賠償を求める民事裁判を起こしていたのだ。提訴は14年で、翌15年には岡庭容疑者と両親に約1900万円の支払いを命じる判決が下されたのだが、手元にあるのはその裁判資料の閲覧記録。訴状や判決文だけではなく、民事裁判に証拠として提出された刑事裁判の際の資料も含まれており、冒頭の供述調書はその一つである。それらをひもといていくと岡庭容疑者の残虐性が浮き彫りになるが、驚かされるのは“ある人物”との類似性。1997年に起こった神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇聖斗こと元少年Aと似通った点が多く見られるのだ。
酒鬼薔薇は相手に苦痛を与えることによって性的に興奮する性的サディズムを抱えていたが、冒頭の陳述からも分かる通り、岡庭容疑者が同様の性的嗜好を持っていたのは明らかである。また、近所の野良猫を捕まえては殺し、中学に上がる頃には「人間を壊してみたい」との思いに囚われるようになったとされる酒鬼薔薇。
一方の岡庭容疑者は、
〈幼少期から昆虫を殺すなどしていたが、標的となる生物が昆虫からカエルや鳥へとエスカレートしていった。(中略)小学生のときから、猫に対し、石を投げる、空気銃で撃つなどの加害行為に及んでいたが、平成21年頃から、猫を殺そうと思うようになり、金槌で殴るなどして約5匹の猫を殺した〉(民事裁判の判決文より)
〈平成22年10月上旬頃、小型動物捕獲用ケージを用いて猫を捕獲し、ケージの外から、その喉付近を杭等で複数回突き刺した上、衰弱した猫をケージに入れたまま生き埋めにして殺害した〉(同)
三郷市で女子中学生を刺す約2週間前には、通っていた私立高校に猫の首とナイフを持っていき、それが理由で最終的には高校を自主退学せざるを得なくなった岡庭容疑者。家族の前でもその異常性の片鱗を何度も見せていたが、両親が深刻に捉えることはなかった。それどころか父親は、岡庭容疑者から求められるまま彼がネットでナイフを購入する際に名義を貸していた。その無責任ぶりには絶句せざるを得ないのだ。
そんな両親の目に岡庭容疑者はどう映っていたのか。民事裁判に提出された二人の供述調書から見ていこう。
それによると、岡庭容疑者の両親は93年に見合い結婚。翌年に岡庭容疑者が生まれ、その3年後に次男をもうけた。
〈「吾義土」という名前は、妻の兄が命名した名前になります。妻の兄からは、アニメのキャラクターにあやかり、また、画数も41画ととても縁起のいい数字だったので、この名前にしたと聞かされています〉(父親の供述調書より)
〈吾義土は、私の両親にとって初孫ということで、祖父母からとてもかわいがられており、祖父母によくわがままを聞き入れてもらっていました〉(同)
母親の供述調書にはこうある。
〈とりわけ義母は、吾義土のことをとにかく可愛がっており、吾義土のわがままをなんでも聞き入れ、吾義土を甘やかしていました。私は、母親として、やはり子供を甘やかされていい気分はしませんでしたが、嫁という立場上、義母に強く言うことはできませんでした。主人も、吾義土のことを義理の両親に任せていたようで、特に何も言ってくれませんでした。そのせいか、吾義土は、母親の私が言うのもなんですが、とてもわがままに育ってしまったと思います〉
酒鬼薔薇が「おばあちゃん子」だったことは知られている。小学5年の時に祖母と死別したことが彼の人格形成に大きな影響を与えたとの見方もあった。岡庭容疑者もまた、祖母に溺愛されて育ったわけである。
岡庭容疑者の自宅敷地内には母屋と離れがあり、岡庭一家は離れで、祖父母は母屋で暮らしていた。岡庭容疑者は、
〈学校にいる時間以外のほとんどを母屋で過ごすほど〉(判決文より)
祖父母ベッタリの日々を送っていたが、そんな生活が変化するのは中学1年の頃。両親と祖父母の間でいさかいが生じた際、
〈祖母から「来るな。」などと言われ、目の前で母屋の玄関の鍵を閉められたことから、ショックを受けた〉(同)
それ以降はほとんど毎日、家族4人揃って夕食をとるようになったという。
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