清原果耶は「集中型の演技ができる人」の意味 朝ドラ「おかえりモネ」に集まる期待
5月17日からNHK連続テレビ小説の新作「おかえりモネ(以下「モネ」)」(月~土曜午前8時)が始まる。朝ドラは大河ドラマと並んで同局の基幹番組だが、「モネ」は特に力が入っているようだ。東日本大震災から10年となる節目に放送し、被災地の今と未来を見つめる作品となるからだろう。
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ヒロインのモネこと永浦百音を演じるのは清原果耶(19)。若手屈指の演技派との評価を得ている。
産院で看護師見習いをする主人公・アオイに扮した「透明なゆりかご」(NHK、2018年)は文化庁芸術祭大賞などドラマ各賞を総ナメにした。
北海道大文学部教授の映画評論家で、『黒沢清、映画のアレゴリー』などの著書がある阿部嘉昭氏も「演技は既に皆から一目置かれている」と清原を評する。
その上で「集中型の演技ができる人」と語る。どういうことか。
「たとえば『透明なゆりかご』において演じた主人公はたびたび辛い立場に置かれて、落ち込んだ。けれど、その落ち込みから一気に立ち直らず、ゆっくりゆっくり打開していった。これによって、より大きなドラマのうねりが呼び込まれた」(同・阿部教授)
その人物になり切り、感情の変化を表すわけだ。
「彼女は作品によって目つきが全然違う。また顔の印象も変わる。カメラの角度によって変わるし、感情によっても変わる。その中に生々しい表情を見せる瞬間がある」(同・阿部教授)
それが役者としての清原の魅力の1つだと言う。
「彼女は通例の美人女優の枠組みには当てはまらないだろう。そういった枠から外れたリアルな演技力を求められている人」(同・阿部教授)
「モネ」でも名演を見せてくれるだろう。また朝ドラのヒロインは緊張を強いられるものの、これは大丈夫だろう。なにしろ朝ドラは3作目なのだから。
デビュー作が2015年度後期の「あさが来た」だった。波瑠(29)がヒロイン役で、豪商の今井家の女中・ふゆを演じた。
当時14歳。そう目立つ役ではなかったにも関わらず、話題になったのは朝ドラファンならご記憶だろう。
次は2019年度前期の「なつぞら」に出演。今度はヒロイン・なつ(広瀬すず、22)の妹・千遥に扮した。この時は17歳。にもかかわらず、30代まで演じた。自然だった。
さて、図らずも「モネ」はNHKにとって視聴率回復を期する作品にもなった。前作「おちょやん」の視聴率が伸び悩んだからだ。
全話通じての平均世帯視聴率は17%台(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。開始時刻が午前8時15分から同8時に繰り上がった2010年度前期の「ゲゲゲの女房」以降、初めて1話も世帯視聴率が20%に届かなかった。
17%台でも1700万人以上が見ていたのだから、ファンは大勢いたことになるものの、NHK側の本音は「朝ドラは20%台」(NHK関係者)。基幹番組であり、ドラマ制作者たちの座標軸だからだ。
録画機器がかなり普及し、NHKオンデマンドなどの配信サービスも充実した。世帯視聴率が取りにくい時代である。もっとも、それらの条件は最高22.4%に達した2019年度後期の「スカーレット」や同22.1%だった2020年度前期の「エール」と変わっていない。
また、どうやら世帯視聴率に不信感を抱く人もいるらしいが、この数字は個人視聴率と相関関係があり、どちらも指標になることに変わりはない。
個人視聴率を真っ先に推進した日本テレビの田中宏史編成部長も「(個人の)7.5%は世帯で12~13%、11%というのはかつての18%~20%に当たると考えております」(「創」2021年1月号)と相関関係を認めている。
第一、世帯視聴率が無意味な代物だったら、ビデオリサーチは調べない。スポンサーは個人視聴率ばかりを気にするものの、それは個人視聴率のうち、世代別・年代別などを絞り込んだデータ。これは外部には公開されていない。
その上、NHKは世帯ごとに受信料を取るから、まず気にするのは世帯視聴率。それが分かっているから、放送取材のプロ集団である新聞・通信社の放送記者クラブの面々も基本的に世帯視聴率を記事に使っている。
2つ視聴率があると分かりにくいので、いずれ個人視聴率に一本化されるはずだが、まだ先だ。1年前、日テレの土屋拓編成部編成部長は個人視聴率が一般に浸透するまでの見通しを、少なくとも3年はかかると語っている(「GALAC」2020年3月号)
主演級が揃った出演陣
さて、「モネ」の制作が発表されたのは昨年5月27日だ。その後、何度かに分けて共演陣やストーリーが発表された。NHKが古くから行っている宣伝手法だ。あらためて前半のストーリーと共演陣を紹介したい。
清原が演じるモネこと永浦百音は宮城県気仙沼湾沖の自然豊かな亀島で育った。生まれたのは1995年。大震災の時は16歳だった。
2014年春の高校卒業時の受験にはことごとく失敗。島を1人で出て同県内陸部にある登米市へ移り住む。大震災から3年が過ぎていた。
登米市では森林組合に勤務。林業や山林ガイドの見習いを始める。だが、「人の命を救いたいから医者になった」という医師の菅波光太朗(坂口健太郎、29)らと接するうち、モネにある感情が芽生える。
「ただ誰かの役に立ちたい」
初めての思いだった。背景には、1万5900人の命が失われ、今も行方の分かっていない方が2525人いる大震災があるのは言うまでもない。
モネの運命は人気お天気キャスターの朝岡覚(西島秀俊、50)との出会いから急転する。朝岡が気象予報の魅力をモネに説いたからだ。人の役に立つ仕事だ。
気象予報士に憧れたモネは資格を取ろうとするが、合格率5%の難関。猛勉強の日々が始まる。大学受験は全敗だったが――。
共演陣は超豪華版。モネの父・永浦耕治は内野聖陽(52)が演じる。言うまでもなく主演級の役者である。母の亜哉子に扮するのは鈴木京香(52)。こちらも主演級なのは言うまでもない。
妹の未知には蒔田彩珠(18)が扮する。2020年公開の映画「朝が来る」(河瀬直美監督)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した若手の注目株だ。
祖父の龍己は藤竜也(79)が演じ、祖母の雅代役は竹下景子(67)。雅代は既に他界しており、回想シーンでの登場となる。竹下は語りも担当する。
かつては気仙沼一の漁師だったが、大震災で船を流されてしまい、別人のように覇気がなくなった及川新次役は浅野忠信(47)。浅野は朝ドラ初登場である。
森林組合の組合長も務める資産家・新田サヤカを演じるのが夏木マリ(69)。登米市にやってきたモネを下宿させる。
第1週は登米市から始まる。ヒロインが子供時代から始まる一代記のようなスタイルではない。いきなり見せ場から入る。
1218人の方が亡くなり、いまだ行方不明の方も214人いる震災時の気仙沼市が、どう描かれるかは分かっていない。
被災地・宮城県栗原市出身の宮藤官九郎(50)は2013年前期の「あまちゃん」で震災当日の岩手県・北三陸をジオラマで描き、やさしさが称賛された。だが、本当のところ、辛くなるので実写では描きたくなかったのではないか。
今度の脚本は安達奈緒子さん。「透明なゆりかご」やテレビ東京「きのう何食べた?」(2019年)など繊細なタッチの作品を書いてきた人である。
大震災の場面はどう描くのか。