元フジテレビ名物Pの回顧録、「オレたちひょうきん族」がTBS「全員集合」を倒せた理由

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今後のテレビの戦い方は

 さて、各局が激しい視聴率争いを繰り広げるうち、視聴者のテレビ離れが起きている。止まる気配がない。これについては、どう見ているのか。

「ここ数年でメディアを取り巻く環境があまりにも大きく変わった。私の家のテレビ受像機もネットフリックスやアマゾンのプライムビデオなどにつながっています。けれど、テレビって、まだまだ強い潜在的な力を持っていますよ」

 では、どんな番組が巻き返しの切り札になるのだろう。

「まず生番組。テレビの一番の原点、一番の強さですから。スポーツやニュースに限らず、生っていうのはテレビの最大の特性です。だから、最近はバラエティでも生が増えつつあるし、生の感覚を生かしたものも多い」

 確かに4月4日にTBSが放送した「本当のとこ教えてランキング」は生だった。

 バラエティ部門はサブスク各社よりテレビ局のほうが優勢だろう。

「バラエティに限らず、テレビの人間はサブスク各社がつくれないものは何なのかを考えるべきでしょうね。例えば、ドラマの人間と報道の人間が力を合わせ、ドラマをつくる。時事性がしっかり打ち込まれたドラマをつくるんです」

 サブスク各社には報道部門がない。報道があるのはテレビ局の強み。半面、同じ社内で働きながら、これまではドラマ部門と報道部門がコラボレーションする例はまずなかった。

「これからはドラマと報道の人間が組み、今この時代の日本が持ってしまっている緒課題をドラマに取り入れるんですよ。大災害や大事件とかをドラマ化とは違う。絶対貧困の問題や深刻な分断の問題、あるいはコロナ禍で本当に苦しんでいる飲食業界の人たちの話などニュースやワイドショーでは見えてこない現実をしっかり取材して脚本をつくってゆく」

 太田氏自身、ワイドショーや情報番組、ノンフィクション番組を統括する情報企画局長時代にドラマをつくった。2005年に放送された「山田太一ドラマスペシャル やがて来る日のために」である。企画し、仕切った。

 主人公は訪問看護師(市原悦子、82)。死期が迫っていることを意識しながら、在宅療養を続ける患者たちと看護師のふれあいが描かれた。ベースは実話。太田氏のワイドショーやノンフィクション番組での経験が投影されたドラマになった。

 当時、このドラマについて太田氏の同期の編成局長は「こういうシリアスな話は視聴率が取れない」と悲観的な見通しを口にした。ドラマのエキスパートの予測だったが、結果はヒット作の基準である15%を超えた。

「等身大のラブコメのドラマをやるのも需要があるから良いと思いますが、最近はそういったものがちょっと多すぎる気がします。僕が言うまでもないんですが、テレビはもう少し時代を掴まえた上で、ドラマもバラエティもつくったほうが良いと思いますね」

 テレビ界にとって建設的な話をしながら、太田氏は「僕は終わった人なんです」と苦笑する。

「我々の時代は世帯視聴率が一番重要なデータだったんですが、今は個人視聴率どころか、13歳から49歳を『コアターゲット』とか、『キー特性』と名付け、この層の数字を最重視している。だから私はもう終わった人」

 では、なぜ回顧録を書いたのか。

「僕の妻に現場時代のことを話すたび、『本当にそんなことがあったの』と面白がってくれたんですよ。でも、ガンになってしまいまして。彼女が生きているうちに現場のことを本にして、プレゼントできないかなって思っていたわけです。不純な動機でした」

 本は4月上旬に発売された。だが夫人は昨年11月に逝去。間に合わなかった。

太田英昭(おおた・ひであき)
1946年、北海道千歳市出身。中央大法学部卒業後、フジテレビ入社。ワイドショー、情報番組の制作に携わった後、「ザ・ノンフィクション」「週刊フジテレビ批評」「とくダネ!」BSフジの「プライムニュース」などの立ち上げの中心となる。2013年、フジ・メディア・ホールディングス代表取締役社長。2015年、産業経済新聞社代表取締役会長に転じる。現在、同社顧問。インターネットの英語ニュース・オピニオンサイト「JAPAN Forward」を運営する一般社団法人ジャパンフォワード推進機構代表理事。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月15日掲載

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