袴田事件、弁護団長「西嶋勝彦さん」の素顔 真犯人は「警察と利害が一致していた人物」

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検察が三者協議に加わるのはおかしい

 西嶋氏はこの一月で80歳になった。間質性肺炎に悩まされ昨年から酸素吸入ボンベをひっぱりながら車椅子という不便さだが、刑事事件だけやっているわけではない。取材中も四国に住む依頼女性から電話があった。「罰金を払えない人が今から労役場留置なので挨拶の電話してきたんですよ」。

 西嶋勝彦氏は福岡県出身。長兄はシベリア抑留され、旧制中学生の次兄は通学途中に米軍の機銃掃射で亡くなった。1963年(昭和38年)に中央大学を卒業、現在よりはるかに難しい司法試験に合格し、東京五輪の翌年の1965年に弁護士登録した。翌年に袴田事件が起きたが当時は関わっていない。しかし、山口県で起きた八海(やかい)事件、仁保事件などの殺人冤罪事件を担当した。そして有名な「四大死刑囚冤罪」のひとつ島田事件に関わる。静岡県の事件だ。

「島田事件の赤堀政夫さんが無罪になった後、袴田弁護団から声がかかった。だいぶ後で巌さんに面会したがすでに言動はおかしかった。でもそうなる前の袴田さんが家族に出した書簡の文章は非常にレベルが高い。上告趣意書も素晴らしい文章。八海事件の死刑囚も獄中で高いレベルの文章を書けるようになった。獄中で勉強したのですね」。

 通常事件での証拠開示は司法改革での成果だが、再審には及んでいない。裁判所の検察への開示は勧告にとどまり命令ではない。「残念ながら再審には直接は反映せず、いわば裁判官次第。役人の裁判官はややこしいものは棚上げにして異動を待ちたがり審理が放ったらかされる。再審法の改正をしないと埒があきません」。

 日弁連に再審法改正のための独立の対策本部設置を要求している西嶋氏は「そもそも検察官が三者協議の一員として加わることがおかしい」と強調する。「再審手続きは請求人と裁判所の関係で検察は当事者ではない。検事が不服申し立てすることもけしからん。規定を改正しないと検察はどこまでも即時抗告や特別抗告できてしまう。東京高裁が再審開始決定しても検察は特別抗告できる。不服申し立てを許している国は珍しい、ドイツは禁止している。日本は世界の趨勢から遅れています」。

 八海事件などで若い頃から正木ひろし、上田誠吉、後藤昌次郎、青木英五郎など錚々たる「冤罪弁護士」に接した。「主に自由法曹団の本部が同居していた事務所にいたけど、検察に敗北した地方の弁護士が支援を求めてきた。再審事件は日弁連の人権擁護委員会でかかわった。丸正事件、徳島ラジオ商事件などです。ラジオ商事件の主任裁判官が秋山(賢三)さん。袴田事件では僕が秋山さん(現弁護士)を誘ったら頑張ってくれました」。

警察と通じている真犯人

 袴田事件の真犯人は誰なのか。「父(専務)と不仲と言われ一人生き残った長女(故人)に疑いをかける向きもあるがそれは違う。再審請求になってから警察と通じているある人物が浮かび上がったが味噌会社の乗っ取りとは違いました。怨恨ですね。物取りにしては金が残りすぎている。警察と利害関係が一致していた人物の仕業。そうでないと説明がつかないことが多すぎる。袴田さんも同趣旨のことを上告趣意書に書いています。」という。

 ここでは割愛するが袴田事件をめぐる静岡県警の「捏造」はまだまだある。

 西嶋弁護士は、鹿児島県警が選挙違反をでっち上げた「志布志事件」を扱った映画「つくられる自白-志布志の悲劇」で踏み字事件の被害者、川畑幸夫さんの役で出演した。「顔は出ないけど手足の演技がうまいと褒められたよ」と笑う。「国選はともかく、最高裁の事件は誰よりも多くやったかな」と振り返る老弁護士の戦いは終わらない。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月13日掲載

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