「バーコード読み取れず」「役立たずのタブレット」…ワクチンシステムに自治体職員の怒り
価格を抑えても……
伊藤議員の調査によれば、厚労省をはじめ政府が開発したコロナ対策のシステムは、すでに総額257億円を超えていると見られている。
不具合が長期間放置され全く利用者が増えない接触確認アプリのCOCOAの開発費は6.9億円。海外観戦客の受け入れ断念にもかかわらず、未だに開発が続けられているオリパラアプリには73億円超が投じられている。
V-SYSの開発費が39.6億円に対し、VRSは3.8億円。価格が抑えられたのは、受注したのが新興企業だったからとみられている。
ところが、価格を抑えたにもかかわらず、VRSに接種状況を記録するためと、内閣官房が自治体にタブレットを配布したことで、さらに経費が積み上がった。そのタブレットを供給し、通信システムを提供したのはNTTドコモとNTTコミュニケーションズだが、その受注額は60億円を超えたという。
このタブレットがこれまた不評で、会議室に使われないまま積み上げられている自治体もある。4月26日付の読売新聞によれば、タブレットを使用することに懐疑的なさいたま市では支給の申請すらされておらず、約1000人の接種が終わった時点でVRSへの入力はゼロだった。
NHKをはじめ各報道機関は、高齢者のワクチンの接種状況を報道しているが、その数字はVRSに記録された接種件数だ。これを正確な接種情報と捉えるには、何とも心もとない。
当事者意識を欠いている
官邸筋からは、「VRSは新興企業のミラボが受注したため、大手ベンダーが激怒した」という声が漏れ伝わってくる。またCOCOAの不具合は厚労省が検討チームまで作って原因究明が行われたが、開発に日系の大手ベンダーが参加して“いなかった”ことから「原因究明が容易だった」と指摘されている。
COCOAが問題視される一方で、コロナ対策のために乱開発されているシステムでは、発注する政府側も受注するベンダー側も、当事者意識を欠いているようだ。国会では、それを象徴するような官僚の答弁もあった。
内閣官房が「読み込み可能」と説明していたバーコードが実際には使えないことについて、伊藤議員が「使えるのか、使えないのか」と迫った。それに対して、IT総合戦略室に所属する内閣官房審議官が答弁した。ところが、
「バーコードは参考情報として表示されている。18桁のOCRラインで読み取るようにしている」
と答えるのみ。混乱する現場の実情を知りながら、「バーコードは使えない」と認めることは、決してなかった。
たまらず伊藤議員は、「使えないのなら自治体の方々に、『使えない』としっかり認知するように案内してください」と釘を刺したのだった。
ある自治体のシステム担当者はこう指摘する。
「目に見えて失敗していたり、不備が出ていることでもその非を認めないのが官邸や霞が関の体質ですが、システムにエラーはつきもの。トライ&エラーと改善を繰り返していくのがシステム開発の本質なのに、まったく失敗を認めようとしない姿勢は、システム化に最もそぐわない」
各国のワクチン接種状況は、4月30日時点でイスラエル約60%、イギリス50%、アメリカ45%に対し、日本はわずか2%である。
4月26日、日本の新型コロナ感染症による死者は1万人を超えた。デジタル民主主義を実現する台湾の死者は12人。1998年以降に日本の技術を見習ってデジタルガバメント化に成功した韓国の死者は1831人。新型コロナが発生し武漢で未曽有の危機に瀕した中国でも、強力なデジタルガバメントによって死者は4636人に留まっている。
国民の税金を湯水のように使って一貫性のないシステムを作り上げたことが、緊急を要するワクチン接種の大きな足枷となっているのだとしたら何ともやりきれない。
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