ストーカー対策の専門家に聞く 「離れたい相手」への“正しい断り方”
対人コミュニケーションの要諦とは
10年ほど前、『断る力』(勝間和代・文春新書)という本がベストセラーになったが、当時も今も、日本人は欧米人などに比べると、他人からの誘いや依頼を“断る”ことへの苦手意識が強い。だが、正しく断ることは、むしろ円滑なコミュニケーションを生み、対人トラブルを防ぐことにも繋がる。ストーカー問題に詳しいカウンセラーの小早川明子氏に、離れたい相手への適切な断り方について聞いた。自身もストーカー被害の経験を持つ西谷格氏によるレポート。
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ストーカーに限らず、知り合いを相手にハッキリNOを伝えるのは、意外と難しいものだ。対人コミュニケーションの要諦について、小早川氏はこう言う。
「人間関係を構築する際は、ポジショニング、コミットメント、リミット、の3つについてしっかり相手に伝えることを心がけて欲しい」(小早川氏、以下同)
横文字ばかりでとっつきにくいかもしれないが、ひとつ一つ読み解いてみたい。
一つ目のポジショニングは、“お互いの立ち位置”を意味する。例えば、「私はあなたとの関係を『上司と部下』として見ています」といった具合に、そもそもの両者の立場や関係は何なのか、確認しあうことが重要だという。
もちろん、相手との関係をよりプライベートなものにしたいと望むなら、「友人としても関係を持ちたい」というポジショニングを表明してもいい。
関係を変化させていくことは自由だが、その時々の“お互いの立ち位置”をどうしたいのか、自覚的である必要がある。また、相手に許可を求めることで、トラブルを防ぎやすくなる。
アサーティブな自己表現とは
二つ目のコミットメントは一般的には公約、確約などの訳語が当てられるが、この場合は“自分は何を一番大事にして生きている人間なのか”という意味を持つ。
「自分は何者なのか、最初に伝えることが重要です。人間は勝手に相手を美化したり、想像したりします。想像を膨らませ、現実を知ったときに愕然とする。そして、裏切られたと思い込む。憎悪型のストーカーの多くは、こうした思考回路をたどります」
例えば、仕事至上主義的だとか、独身主義者だとか、親の意見には従いたいと考えているなどは、早い段階で表明するほうが、後々のトラブルを避けることにつながる。
最後のリミットは、これをされたら関係を保てないという、自分の限界や前提を言語化したものだ。
「付き合っても一人の時間はどうしても必要だ、嘘をつかれたらもうダメ、スマホを勝手に見られたらどんなに好きな相手でも付き合えない、異性の友達と食事までは良いが手をつなぐのは許容できない、といったことが例に挙げられます」
酔客を相手にするキャバクラ嬢が“太ももまではいいけど、胸は絶対に触らせない”などと決めて伝えていたりするのも、リミットの一種と言える。
これら3つのポイントは“アサーティブな自己表現”と呼ばれるもので、日本人同士のコミュニケーションには、不足しがちだという。
アサーティブとは、英語の「assert=断言する、断定する」が語源で、自他を尊重した“明確な自己表現”を意味する。
「日本人は相手を傷つけまいとするあまり婉曲表現を使いたがります。それは伝統的な美徳でもあったのですが、その美徳はもはやマナーとは言えないほど、社会は複雑化している。明確に伝えないと通じない相手がいることを、理解しなくてはいけません」
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