コロナは少子化を18年早めた? 出生数急落、婚姻数激減で

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マーケットの縮小

 日本人の働き手世代が減り、外国人労働者も思うように確保できないとなれば、中小企業を中心に「人手不足倒産」が拡大することとなる。

 働き手世代が想定より早く縮小することの影響は、これにとどまらない。勤労世代とは働き手であると同時に、旺盛な消費を期待できる中心的存在でもある。少子化の加速は国内マーケットの縮小スピードを速めることにもなる。

 ベビー服や学用品といった子供向け商品を扱うビジネスは20年も待たずしてマーケットが縮み始め、若い消費者を主要なターゲットとしてきた業種の市場にも次々と波及していく。日本は内需依存度が高く、大企業もコロナ禍を機に収益構造の抜本的見直しに踏み出さなければ、生き残れなくなるだろう。

 少子化が進んだからといって高齢者数が即座に減るわけではないので、高齢化率は相対的に上昇することになる。若い世代が想定していたより減る分だけ、世代間の支えあいとなっている年金などの社会保障制度の財政は脆弱となっていく。

 少子化の加速と並んでわれわれが危機感を抱くべきは、“高齢者の消滅”である。“消滅”といっても、コロナで亡くなる人が増えるという意味ではない。消費マインドが冷え込み、高齢消費者が実質的に減ってしまうことだ。

 コロナは高齢者の重症化リスクが大きく、警戒をし過ぎて自宅周辺に閉じ籠っている人が増えた。週に1回程度しか外出しないという極端なケースまであるという。

 高齢者の引きこもりは、「フレイル」(身体機能や認知機能の低下が表れ始める状態)を招く。ただでさえ、高齢者の5人に1人が認知症という時代を迎えつつあるのに、フレイルになる人が増えればなおさら高齢者マーケットは縮む。

 総務省の「家計調査」(2人以上の世帯)によれば、2020年の消費支出は物価変動の影響を除いた実質で前年比5・3%減となり、落ち込み幅としては比較可能な2001年以降で最大であった。これを支出項目別に若い世代と高齢世代とで比較してみると、「洋服」や「教養娯楽サービス」などでは高齢世代の落ち込みが浮き彫りになった。

 これに対し、政府や各企業は感染収束後の「V字回復」を目指しているが、“過度な警戒心”からの脱却は一朝一夕にはいかない。

 V字回復を妨げる材料は他にもある。コロナ後の負担増だ。政府はコロナ対策として積極的な財政支出を行っているが、感染が収束すれば引き締めは必至である。すでに決まった75歳以上の医療費窓口負担の引き上げに続いて、さらなる負担増が予想される。これでは感染収束後に消費マインドに火が点くどころか、財布の紐は固くなるばかりだ。

 現在、65歳以上の高齢者数は3600万人強だが、高齢者の消費支出が平均して1割落ち込めば、高齢者マーケットが360万人分縮小するのと同じである。

「若さ」が失われた国

 そして、少子高齢化の加速が恐ろしいのは、何よりも日本社会そのものの「若さ」を急速に奪っていくことにある。

 日本は高齢者数が多いだけでなく国民全体が高年齢化しており、コロナ禍のようなストレスフルの社会では人々の思考が「守り」に入りやすい。

 他国でも大なり小なり社会の活力が削がれただろうが、国民の平均年齢が若ければ回復も早い。ところが、すでに国民の3人に1人が高齢者という日本は、そううまくはいかない。活力を取り戻すのにかなりの時間がかかるだろう。

 加えて、日本は同調圧力が生まれやすい社会風土がある。「他人の目」が気になり、どう考えても感染リスクの低いイベントや事業まで続々と中止や延期を決めてしまう。

 同調圧力の怖さは、活動的な若い世代の行動まで制限することである。「守り」に入った社会は、チャレンジ精神より「慎重な行動」や「無難さ」を好む。

 ただでさえ少子化で若い世代の数が少なくなっているのに、その貴重な若者を縛り付け、やる気を奪っていくのだから社会が活力を取り戻せるはずがない。コロナ禍とは、高齢化率の高い国ほどダメージを受けやすいのだ。

 むろん、高齢者が多い社会において“未知のウイルス”に対する警戒心が強くなるのは当然である。感染防止策の徹底も不可欠である。だが、「度を超した萎縮」は社会全体の利益を損なうということだ。今の日本は、自らの手でコロナ不況を深刻化させているようなものである。

 社会としての「若さ」を急速に失うと、国家の存続をも危うくする。コロナ不況は世界恐慌とも比較されるように、各国経済が同時に傷つくという特異な局面をつくった。どの国もコロナ後に向けて政治的、経済的優位性を確保すべく駆け引きを繰り広げているのである。高齢者の多い日本はそれだけでも出遅れが懸念されるのに、若い世代に手枷足枷をはめているのでは経済復興の波に乗り遅れるどころか、致命傷を負いかねない。

 英国の有力シンクタンク「経済経営研究センター(CEBR)」が昨年末、中国のGDP(国内総生産)が米国を抜いて世界1位になる時期について従来の予測よりも早い2028年との見解を示した。予測を早めたのは、両国のコロナの封じ込め状況の差であろう。日本については2030年にインドに抜かれて4位に転落すると予測しているが、経済復興に手間取ればインドに抜かれる日はもっと早く来る。

 もとより日本政府は「コロナ前」から少子高齢化や人口減少に対して強力な対策を講じてこなかったが、状況がさらに悪化した今も危機感は伝わってこない。この間、菅義偉政権が打ち出した政策といえば、不妊治療の保険適用範囲の拡大や男性の育休取得の推進といった程度の対策だ。これらが重要でないとは言わないが、あまりにもスケールが小さく、成果も期待しづらい。

 少子高齢化は容赦なく加速を続ける。国民を「守り」の思考から解き放たないかぎり、日本はどんどん「若さ」を失っていく。ここで政府が本腰を入れなかったならば、われわれは遠からず、衰退して外国資本に呑み込まれていく日本を目撃することとなる。

河合雅司(かわいまさし)
ジャーナリスト。1963年名古屋市生まれ。中央大学卒。産経新聞社に入り政治部記者、論説委員などを経て現在、一般社団法人「人口減少対策総合研究所」理事長。ベストセラーの『未来の年表』シリーズ、『日本の少子化 百年の迷走』など著書多数。

週刊新潮 2021年4月15日号掲載

特集「『未来の年表』の著者が警告 2021『ベビーショック』コロナは少子化を18年早めた」より

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