反対する人は人を不幸にしている……「選択的夫婦別姓」推進派に奢りはないか

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「反対する人は、人を不幸にする」と威圧する選択的夫婦別姓論の不気味さ

「老舗の実家の家名を継ぎたいが、結婚すると姓が変ってしまうので結婚できない」という女性の声があるという。結婚相手の男性が女性の実家の姓を名乗ってくれれば解決する問題なのだが、それができないというのだろう。では、仮に民法が改正されて選択的夫婦別姓制度が始まり、その女性が夫婦別姓を選んで実家の姓を継いだとしよう。しかし、その姓は「家族共通の姓(家族名)」ではないから、その女性個人を表わすものでしかない。もはや女性の実家が期待するような「家名」ではなくなっているのだ。しかも、自分の子や孫にその姓を継いでもらえる保証などどこにもない。わざわざ別姓を選んでまで実家の姓を名乗った意味などなくなるかもしれないのに、「若いのに家名を継ごうなんて感心だ」で済まされるのだろうか。

 選択的夫婦別姓の実現を声高に主張する人の中に、元文部事務次官の前川喜平氏がいる。官僚のトップだったとは思えない奔放な発言に共感する部分もあったのだが、今年3月19日にこんなツイッターをして驚かせた。「同性婚も選択的夫婦別姓も、それで幸せになる人がいて、不幸になる人はいないのだから、誰にも反対する理由はない。反対する人は、自分の好き嫌いを人に押しつけて、人を不幸にしているのだ。人を不幸にする政治家は、次の選挙で落とそう」。

 夫婦別姓には誰にも反対する理由がなく、異を唱えることは「人を不幸にする」ことだと言うのである。

 心理学者の小倉千加子氏は、社会学者の上野千鶴子氏と対談した『ザ・フェミニズム』(2002年、筑摩書房)の中で、「夫婦別姓」に対して次のように語っている。「私はないほうがましと思っているんです。夫婦別姓になったらとんでもないと思っています」「夫婦別姓になったら、まるで夫婦別姓をしている人の方が進んでいて、夫婦同姓の人の方が遅れているみたいになりかねない。
そこでまた一つの差別化が行われるわけじゃないですか。今はまだ一つで、いっしょだからいいですけれど」。前川氏の辛辣な言葉を聞くと、既にこうした差別が始まっているような気がして不気味だ。

 その小倉千加子氏はいわゆるフェミニストの中でも、事実婚を含む「結婚制度」そのものに否定的で、既成のいわゆるリベラルフェミニズムを批判する立場から夫婦別姓に言及しているのだが、次のようにも語っている。

「若い子はこのごろ、同姓になりたがっています。私はそっちを応援しますね。『好きやったら、苗字も捨てる!』 そこまで行けよ!と」「彼の苗字になりたいというナイーブさを、あえてここで支持するのであって、別姓にしてまで、なんで婚姻届を出すんでしょうか」。

椎谷哲夫(しいたに・てつお)
ジャーナリスト(日本記者クラブ会員)、皇學館大学特別招聘教授。宮崎県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院社会科学研究科修士課程修了。元中日新聞東京本社(東京新聞)編集局編集委員。警視庁、宮内庁、警察庁などを担当。著書に『皇室入門』(幻冬舎新書)など。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月7日掲載

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