反対する人は人を不幸にしている……「選択的夫婦別姓」推進派に奢りはないか
「選択的夫婦別姓に賛成7割」という調査はどこまで公正だったのか
同じ3月3日の参院予算委員会では、立憲民主党の真山勇一氏も選択的夫婦別姓を推進する立場で菅義偉首相に質問した。一枚のパネルを示しながら「先ほど菅総理、(選択的夫婦別姓に対する賛否が)拮抗しているというふうにおっしゃっていたんですが、拮抗なんかしていませんよ。これ見てくださいよ。この調査結果」と迫った。
真山氏が示した調査結果というのは、棚村政行・早稲田大学法学学術院教授の研究室と「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」(以下、陳情アクション)という別姓推進派の団体が昨年秋に合同で行った『47都道府県「選択的夫婦別姓」意識調査』のことだ。「7割が選択的夫婦別姓に賛成」と新聞やテレビが報じたあの調査である。
調査は令和2(2020)年10月中旬、民間調査会社に依頼して20~59歳の男女7000人から回答を得た。陳情アクションのホームページ(HP)には「全国では70.6%が選択的夫婦別姓に賛成、一方で反対は14.4%という圧倒的な結果になりました」と勝ち誇るように書かれている。具体的にはどういう調査なのか。
質問は四択で、その結果は以下のとおりである。(1)『自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦も同姓であるべきだ』(14.4%)、(2)『自分は夫婦別姓が選べるとよい。他の夫婦は同姓でも別姓でも構わない』(35.9%)、(3)『自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦は同姓でも別姓でも構わない』(34.7%)、(4)『その他。わからない』(15.0%)。
(2)と(3)の「他の夫婦は同姓でも別姓でも構わない」を合わせた70.6%が「選択的夫婦別姓に賛成」だと結論づけているが、気になるのが(1)の選択肢である。その表現は「他の夫婦も同姓であるべきだ」となっているが、「他の夫婦も同姓が望ましい」という表現だったら結果はどうだったろう。「他の夫婦も同姓であるべきだ」という強いトーンの選択肢に躊躇した人はいなかっただろうか。
HP上の「有識者コメント」の中にこんなコメントがあった。「(調査結果は)選択的夫婦別氏制の導入に賛成する方が多いようですが、これに内心反対ではあるがまだ声を挙げていないという方も多数おられるはずです」。別姓推進派である元法務省⺠事局参事官の小池信行氏のコメントであるだけに説得力を持つ。
菅首相「聞き方とかそういうことで(結果が)変っていることも事実」
『47都道府県「選択的夫婦別姓」意識調査』については、その意義まで否定するつもりはない。しかし、通常の新聞やテレビの世論調査と異なっていることは事実である。その一つが、対象年齢が59歳までとなっていることだ。結果発表の記者会見はともかく、HP上ではその理由は示されてはいない。
加えて、アンケートの設問に「選択的夫婦別姓制度とは」(約300字)いう説明文が付いているのが気になる。その内容はと言うと、法務省のサイトに掲載された「選択的夫婦別氏制度の解説およびQ&A」や「衆院法務委員会」(2018年3月20日)での法務省当局による国会答弁から抜粋したもので、「改姓による社会的な不便・不利益を指摘され(中略)導入を求める意見があります」「夫婦同姓を義務化している国は現在、日本以外にありません」など別姓推進の立場からの内容となっているのだ。
これが果たして公正な調査と言えるかどうか。マスコミ出身の真山勇一氏は参院予算委員会で得意げにこの調査結果を披瀝したのだが、菅首相は冷静にこう答えた。「今の世論調査の結果示されましたけど、世論調査のことについても、いろんな聞き方とかそういうことで変っていることも事実じゃないでしょうか」。
しかし、法務大臣の上川陽子氏の答弁はそうではなかった。同じ真山氏の質問に対し「それがどんな形で行われていたのかということについては定かではございませんけれども、一つの調査として大変貴重な調査というふうに思います」と答弁した。「どんな形で行われたのか定かでない」のに「大変貴重な調査」と言うのだ。国の法務行政を担う閣僚の答弁としては、いささか危うくはないか。
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