「全裸男」に「クモ男」、「照明灯に10時間立てこもり」…プロ野球で起きた “珍事件”

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「大洋が弱いからいけない」

 試合終了直後、球場の照明灯に男性がよじ登り、翌朝まで10時間にわたって立てこもる事件が起きたのが、89年10月12日の大洋vs.ヤクルト(横浜)である。

 同日22時頃、三塁側スタンドの地上約43メートルの照明灯に一人の男性が登っているのを、球場関係者が発見、110番通報した。

 加賀町署員や消防署のレンジャー部隊などが出動し、下に降りるよう説得したが、頂上に近い直径80センチの踊り場に座り込んだ男性は酒に酔った様子で、「大洋が弱いからいけない」「パトカーや消防車が帰らないと飛び降りる」と言い返し、聞く耳を持たない。

 その後、「誰もいなくなったら降りる」と約束した男性は2時頃、ゆっくり降りはじめたが、人の気配を察して再び上へ。そのまま踊り場で寝込んでしまい、結局、翌朝の7時半頃、降りてきたところを建造物侵入で現行犯逮捕された。

 同署の調べでは、男性は47歳のとび職で、「大洋がサヨナラ勝ちしたので、うれしくて我慢できずに登ってしまった」と話していた。いくら登ることに慣れているとはいえ、度を越した行動は困り物である。

「巨人ハ永遠に不ケツデス!」

 広島市民球場に“クモ男”が現れ、騒然となったのが、90年5月12日の広島vs.巨人である。

 事件が起きたのは、2対1とリードした巨人が6回の攻撃に入る直前。バックネット前に黄色い風呂敷で頭と顔を包んだ忍者スタイルの男性が現れ、金網をスルスルと登りはじめた。

 周囲が「何事か?」と注視するなか、男性は背中のリュックから垂れ幕を取り出し、「巨人ハ永遠に不ケツデス!」「ファンヲアザムクナ!」「天誅!悪ハ必ヅ滅ビル」と記された3本の垂れ幕を金網にかけた。場内警備の警察官が降りるよう説得すると、“クモ男”は威嚇するように発煙筒2本を投げつけた。

 最初は呆れて見ていた観客も、度を超した妨害行為に怒りを覚え、男性に罵声を浴びせた。直後、バックネットを降りはじめた男性は、飛び降りた際に左足首を複雑骨折。待ち構えていた警察官に威力業務妨害の現行犯で逮捕された。

 この騒ぎで試合は9分間中断したが、ダメージを受けたのは、皮肉にもクモ男が応援する広島だった。先発の川口和久は、規定の投球練習を終えた直後に試合が中断した影響から、再開後、緒方耕一に二塁打を浴びるなど3点目を失い、1対3で敗れた。

 当然、山本浩二監督は「バカなことするわな」と怒り心頭。巨人・藤田元司監督も「ちょっと白けちゃったね」と勝利の喜びも半減だった。

 19年7月17日の中日vs阪神(豊橋)でも、男性が防球ネットをよじ登る事件が起き、“クモ男再び”と話題になった。真に野球を愛するファンなら、迷惑行為は慎み、マナーを守って応援したいものだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年5月4日掲載

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