幡野広志氏のCakes人生相談がまた炎上、何が問題だったのか?

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新聞の文化面を見てみると

 幡野氏はこれまでも、DV被害者からの相談をウソと決め付けるなど、相談者をバッサリと断罪する無慈悲な姿勢が問題視されていた。

 とはいえ、過去の回答を見ていくと、時に突き放したように見えるフランクなもの言いは、彼のキャラクターとも言える。たとえば、「お金がなくなったら死にたいと考えています」という57歳の女性に対しては、

「ぼくは生きたい人には生きやすい社会であってほしいし、死にたい人には死にやすい社会であってほしいともおもっています。生きる権利は生きる義務ではないとおもっているし、生きる権利と同等に死ぬ権利を持つことも必要だとおもっています。だからお金がなくなったら死にたいという、あなたを止めるつもりもさらさらないんです」

 と回答。

 ただし、その後段では働くことや生活保護を受給することを勧め、「ぼくにはあなたのお金がないから死ぬという価値観が理解できないんです」と餓死や自殺を選ぶことはナンセンスだと説いている。

 素っ気なく冷淡に響く言葉もあるが、全体的には、相談者を応援する気持ちも滲んでいる。たとえば、前述の14歳女子への回答では、

「キミにできることは友達のことを否定せずに、味方でいてあげることだとおもいます」

 という一文もあった。

 一方、同じ人生相談でも大手新聞に掲載されている回答者の答え方は、幡野氏とはかなりテイストが異なる。

 たとえば、「実家を出た後、両親の関係がギクシャクしそうで心配だ」と悩む18歳の女性に対し、回答者のジェーン・スー氏はまず、こんな言葉を投げかける。

「なんて優しい娘さんなんでしょう。両親の幸せを案じて心を痛めることなど、18歳の私にはまったくできませんでした。自分のことで精いっぱいでしたから」

 そして、相談者の心の重石を外すようにこう続けた。

「結論から申し上げると、放っておけばよいと思います。(中略)子育てが一段落したあとの夫婦関係をどのように紡いでいくか、ご両親はこれから一生かけて学習していくのです」(21年4月2日付毎日新聞)

割り切りも必要か

 過去には、大手紙の人生相談でも炎上騒動が起きたこともあるが、回答内容はおおむね相談者への愛や配慮が感じられ、巧みに背中を一押しするものが目立つ。

 紙幅の都合もあるのだろうが、簡潔ながら思慮深さや謙虚さ、温かみを感じる秀逸な回答も多い。

 とはいえ、幡野氏のように思ったことをそのままストレートに長文で回答するスタイルは、新聞の人生相談にはない面白みもある。

 ズケズケと語る言葉のなかには、新聞には載せられないような偏頗(へんぱ)な見方も含まれるだろうし、自身の無知を露呈することもあり得る。

 それでも、何はともあれ回答をもらえたことは、相談者にとって、現状打破のきっかけやヒントになるかもしれない。

 Cakes編集部にオールドメディアのようなチェック機能が望めないのであれば、あるいは読者の側も“こういうもの”と割り切って、著しい問題のある投稿については、今後も即座に間違いを指摘していくしかないだろう。

 ただ、問題点を指摘された場合は記事を削除するのではなく、幡野氏による補足説明を加えていってはどうだろうか。

 いきなり記事を削除するのは読者の不信を招くだけで、得策ではない。

 すぐに対応できない場合は、「問題点を指摘されており、対応を検討しています」などと取り急ぎ説明するだけでも良いだろう。

 今回、同編集部は幡野氏への事前連絡や協議などもないまま、無断で記事を削除したと見られている。

 読者や書き手と正面から向き合い、相談者に対してもう一歩想像を働かせることができれば、より良いサイトに生まれ変われるのではないだろうか。余計なお世話かもしれないが。

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞「新潟日報」の記者を経て、フリーランスとして活動。2009~15年まで上海に滞在。著書に『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)など。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月30日掲載

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