男性のメイクは流行になるか K-POPとフィルター文化の影響で(古市憲寿)

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「包帯のような嘘を 見破ることで/学者は世間を 見たような気になる」

 中島みゆきの「世情」の歌詞に出てくる一節だ。

 確かにメディアに登場する「学者」たちは、もっともらしい顔つきで世間を評論するが、ごく表層的な分析しかできていない場合も多い。「包帯のような嘘」とは言い得て妙だと思う。

 たとえば人は匿名でも嘘をつき、格好をつけるというのがリサーチ業者の常識だ。好きなテレビ番組のジャンルを聞くと、いつも「ドキュメンタリー」が上位にランクインするのだが、実際はバラエティの方が遥かに視聴率を獲得する。

 一方で口達者な「学者」はこんな難癖をつけるかも知れない。「包帯の有無にかかわらず、どこかに真実があるという想定自体が本質主義的である。たとえ包帯のような嘘だとしても、それに至った経緯を分析することに意味はあるのではないか」といった具合だ。

 メイクで考えた場合、すっぴんとメイク後の顔、どちらが「本物」か「嘘」かを判断するのは難しい。一日の大半をメイクで過ごす人にとって、それを「嘘」と言うことはできないだろう。

 最近はスマホアプリのフィルター文化が発達し、より一層、どの顔を「本物」と考えるべきかが難しくなってきた。「SNOW」などを使えば、簡単に瞳の大きさも、輪郭も、肌質も変えてしまうことができる。動画も加工できるものだから、ステイホーム時代には、ますます「本当の顔」がわからなくなりつつある。

 ところで「めざまし8」という情報番組で、メンズメイクの取材に行ってきた。

 実はメンズ美容は、これまで何度も流行すると言われてきた。既に1960年代の新聞では、男性用乳液や美容整形が広まりつつあることが報じられている。

 しかし化粧品全体の市場規模が2兆6480億円なのに対して、男性向けは1261億円に留まる(「国内化粧品市場調査」2019年度)。スキンケアくらいは常識になりつつあるが、ファンデーションやアイラインなど、積極的なメイクをする男性はまだ少数派だ。

 今度こそメンズメイクは本当の流行になるのだろうか。よく関係が指摘されるのは韓国文化の影響だ。K-POPやドラマなど韓国発のエンターテインメントが好調である。ファッションにしても、韓国系の通販サイトで大量買いをしている人をよく見かける。

 加えてフィルター文化の影響も大きいのだろう。フィルター越しの自分の顔を見慣れていると、まじまじと鏡を見つめた時にショックを受けるらしい。「自分がこんな不細工でびっくりした」と。結果、これまでメイクをしてこなかった男性たちも、シェーディングなどで顔の印象を変えようと思ってもおかしくない。

 古代日本の男性はタトゥーをしていたし、古今東西、権力を持った男たちは威厳を表現するために見た目を気にしてきた。いつかメンズメイクが当たり前になっても不思議ではない(みたいなことを50年後の「学者」も言っているのかも)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2021年4月29日号掲載

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