野村克也、上田利治、川上哲治…名監督、“生涯唯一の退場劇”で何が起きたのか?

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「このバカ!」

 そして3人目は、川上、上田両監督を上回るプロ37年目の初退場となった、阪神時代の野村克也監督だ。99年8月7日のヤクルト戦の3回無死一、二塁、湯舟敏郎が三塁前に送りバントした直後のプレーが事件のきっかけとなる。

 池山隆寛の一塁送球がそれ、ベースカバーの馬場敏史の足が捕球より一瞬早くベースを離れたように見えた。ところが、小林毅二一塁塁審の判定は「アウト!」。

 野村監督が「タイミングはアウトや。それはオレにもわかる。でも、足が離れるのが早いやないか」と抗議したが、聞く耳を持たないため、つい「このバカ!」と声を荒げたのが命取りだった。小林塁審は「耐え難い言葉を言ったので、退場とした」とその理由を説明している。

 これが現役時代も含めて通算4361試合目の退場劇だった。もともと「(巨人戦は)13対9で戦わないかんのだから大変だよ」など、審判への挑発的な発言も多かった野村監督。「まあ、いずれやられるとは思っていたよ」とある意味“覚悟の退場”だったが、中でも小林審判との関係は険悪だったようで、「ベンチにいても審判の位置から睨みつけてくるもんな。あいつはなぜかオレに対しては、ムキになりよる。反野村のキャプテンや」とボヤキが止まらなかった。

 3人の退場劇で共通しているのは、いずれも誤審を確信して抗議しているのに、審判が誤審を認めなかった結果、一線を踏み越えてしまったというもの。現在のようなリクエスト制度があれば、“生涯退場ゼロ”で野球人生を全うできたかもしれないのに……と思わざるを得ない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部編集

2021年4月28日掲載

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