ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」で味わう、モヤッとした感情を明確に言語化してくれる快感
心の片隅でいわゆる「胸キュン」を求めている気もするけれど、若い世代が求めるモノとはちょっと違う。社会に対して、世間に対して、自分に対して、あまりにシニカルになりすぎて、素直に胸キュン恋愛ドラマを楽しめない。そんな「夢見ることをすっかりとっくに卒業した」人におすすめしたいのが、「大豆田とわ子と三人の元夫」(火曜22時、フジ系)である。
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離婚を3回経験した住宅建設会社の社長・大豆田とわ子が主人公。演じるのは、ものすごくいい感じで年齢を重ねた松たか子。深窓のご令嬢や品格を重んじる名家の奥様、真面目な優等生などを演じてきたが、ここ数年のたか子が「荒んで」いていい。
やさぐれたという意味ではなく、おのずとわいてくる勢いのままに、また、気の向くままに事を為す自由な姿という印象。
一見穏やかに見えて、脳内と心中は暴れまくっている女。おそらく、脚本家・坂元裕二の「カルテット」(2017年・TBS)、「スイッチ」(2020年・テレ朝)の主演を連投して、「荒む松たか子」が完成形に近づいたと思われる。
とわ子の最初の夫は田中八作(松田龍平)。オサレなレストランオーナーで、娘の唄(豊嶋花)の父親でもある。ま、いかにもモテそうな、全人類というか地球上の生物に優しくて、気の多そうな男だ。そりゃ、妻となったらやきもきするわな。
2番目の夫はカメラマンの佐藤鹿太郎(東京03の角田晃広)。個人的には、よくよく見るとすごくいい男だと思うのだが、他の元夫が浮世離れしたハイレベルイケメンすぎてね。
とにかくとわ子のことが大好きで、正々堂々、未練たらたらを全身全霊でぶつけてくる。
3人の元夫にも「恋の予感」が
そして、3番目の夫は弁護士で、性格に難ありの中村慎森(岡田将生)。容貌が恐ろしく美しいものの、体の成分は「逆なで」と「揚げ足取り」と「屁理屈」でできている。
弁護士になる前の苦労した時代をとわ子とともに暮らしたため、自分の気持ちを整理できていない。が、とわ子の会社の顧問弁護士で、公私ともに離れられない状況に。
そんな元夫3人に、とわ子はまったく未練はないのだが、なんやかんやで絡みついてくるのを振り切れずにいる。
3人の元夫の性質といい、順番といい、妙にしっくり。シーズン1は優しさと色気の全方位外交の男にやきもきして、シーズン2で自分だけを見てくれる男をうざいと思い、シーズン3で毒舌家のコミュ障を選ぶも、うわ、コイツめんどくせーなと思い始め……という流れがものすごくよくわかる。
借金やDVなど許すまじ要素が皆無だからこそ、「嫌い」が伝わりにくくて厄介な関係が続いているのだ。とわ子自身は3回離婚したけれど、次の恋愛に進みたい、幸せになりたいと思っているところもいい。
初回で「とわ子、モテモテじゃん。こんな素敵な3人の元夫に囲まれて、精神的に成熟した娘もいて、仕事も確固たる地位を得て順調で、何一つ不自由なくて、幸せじゃん!」と思う人もいたかもしれない。
朝から網戸がはずれようが、口内炎ができようが、クヒオ大佐みたいな結婚詐欺師(いかにも胡散臭い斎藤工!)に狙われようが、うらやましいとしか思えないかもしれない。
それでも、とわ子は現状に満足していなくて、もっと違う形の幸せがあるに違いないと欲しているのだから。欲深い女、万歳。そうでなくっちゃ物語が始まらないし進まない。
さらに、3人の元夫にも「恋の予感」が設定されている。
田中には親友(岡田義徳)の彼女・三ツ屋早良(品があって静かなる欲情を醸し出す石橋静河)が、佐藤には女優の古木美怜(令和のファムファタル、やさぐれた色気のある瀧内公美)、慎森には突然の派遣切りで家も仕事も失った小谷翼(まっすぐに目で訴える力が岩をも穿つ石橋菜津美)が絡んでくる。
この女優陣のセンスのよさ! たか子もさることながら、こっちの布陣もなかなかのメンツで、物語をさぞや盛り上げてくれるに違いない。
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