事件現場清掃人は見た 亡き夫を想う女将に私がつい漏らしてしまった“浅はかな言葉”

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沖縄の砂

 ところが翌日、約束した時間になっても夫は病院に来なかったという。

「自宅に電話をかけても誰もでなかったそうです。心配になった彼女は親戚に連絡し、様子を見に行ってもらったところ、倒れていた夫が見つかりました。死因は、湯沸かし器の不完全燃焼による一酸化炭素中毒でした」

 その後、彼女はいくつもの職を転々としながら、幼い子どもたちを夫と過ごしたこのアパートで育てたという。

「愛する夫を亡くした悲しみや、女手ひとつで3人もの子どもを育てた苦労は、計り知れないものがあったでしょう。パートを2つも3つも掛け持ちしたこともあったそうです。私は彼女をねぎらうつもりで、『あの世で会ったら、“大変だったんだからね”って、文句のひとつでも言いたいですよね』と言ったのですが、彼女の言葉を聞いて、なんて自分は浅はかなことを言ってしまったのかと後悔しました」

 女将は首を横に振って、こう言ったという。

「あの人にまた会えたら、何も言わずにそっと抱きしめてほしいのよ」

 高江洲氏が言う。

「きれいな人ですから、その気があれば再婚できたはずです。しかし、そうしなかった彼女の一途さに、私は感心してしまいました。亡くなったご主人は海が好きだったそうで、仏壇の線香立て用の砂は、海辺から持ってきたものを使っていると聞きました。そこで、私の故郷である沖縄から砂を取り寄せてお渡ししました」

 長い間住み続ける古いアパートには夫との思い出がたくさん詰まっている。結局、女将は、引っ越すのをやめたそうだ。

デイリー新潮取材班

2021年4月27日掲載

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