事件現場清掃人は見た 亡き夫を想う女将に私がつい漏らしてしまった“浅はかな言葉”

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り目を覆いたくなるような悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏に、夫を亡くした後も古いアパートに住み続ける居酒屋の女将について聞いた。

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 長年、特殊清掃を手掛けてきた高江洲氏は、若くして伴侶を亡くした遺族の思いに、心を打たれたことがある。

「私の自宅近くに、料理の美味しい居酒屋があります。何度か足を運ぶうちに、女将がテレビで私のことを知っていることがわかり、彼女と親しくなりました」

 と語るのは、高江洲氏。

「彼女は60代で、若い時にご主人を亡くしたそうです。品のある、穏やかな物腰が印象的な、きれいな人でした。ある日、いつものように店で飲んでいると、女将から、仕事の依頼があったのです」

夫とふたりの娘の写真

 特殊清掃でよく行う、残置物(アパートなどの入居者がエアコンなどを設置、退居の際に残していったもの)の処理だった。

「引っ越しを検討しているので、とりあえずいくらぐらいかかるか知りたいということでした」

 高江洲氏が女将に案内されて行ったのは、築50年以上とみられる木造の古いアパートだった。

「間取りは2LDKでした。薄い合板でできた古びた玄関ドアを開けると、部屋は小ぎれいに保たれ、生活用品も使いやすいようにきちんと整理されていました」

 居間には、仏壇が置かれていた。

「夫の遺影と位牌が目に入りました。子どもは3人とも成人して近くに住んでいるそうです。ご主人と死別した後も、幸せな暮らしを送っているように思えました」

 高江洲氏は早速、仕事にとりかかった。

「ところが、転居先に何を持っていき、何を置いていくつもりなのか、あれこれと質問しても、女将は『うーん』と唸るばかりで、引っ越しすることについて、どうにも踏ん切りがつかない様子でした。そろそろ新しい部屋に引っ越してもいいのではないかと思ったそうですが、その時点で何か事情があるのかと思いました。離れたくない気持ちもあるようでした」

 すると女将は、

「これ見てくれる?私が好きな写真なの」

 と言って、高江洲氏を玄関口に呼んだという。

「大きな額に収められた写真が、壁に掛けてありました。あぐらをかいた若い男性の背中にしがみつく女の子と、膝の上にちょこんと座る女の子が写っていました。男性はとても素敵な笑顔でした。亡くなった夫と娘で、3人目となる男の子がおなかにいた時に彼女が撮影したといいます」

 この写真を撮影してからしばらく経った後、彼女は病院で男の子を出産した。

「夫は仕事で出産に立ち会うことができなかったそうですが、彼女が電話で無事に生まれたことを伝えたところ、『明日会いに行く』と言ったそうです」

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