厚労省、問題の「23人送別会」はなぜ行われたのか OBが考える2つの構造的な問題

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危機管理が希薄になる構造

1 職員を世間知らずで保守的にさせる構造

 霞が関職員は、前述のとおり超長時間労働の下にさらされています。長時間労働が続くと、判断能力が低下するだけでなく、外部からの情報に接する機会が極端に減ってしまいます。つまり、「今、何が世間を騒がせているか」といった情報のインプットが、業務以外の場で全くといっていいほどできなくなってしまうのです。私も激務に晒されている間は、テレビ番組は当然のこと、SNS等からも情報を得る時間は全くと言っていいほどありませんでした。また、国家公務員という職務柄、中途採用者が少ないため、悪い意味で世間知らず、かつ慣例通りに進めるという組織構造に拍車がかかってしまった恐れがあります。本来は飲み会以外の他の慰労の形も考えられたはずですが、職員自身が世間知らずな上に、そもそも論から考える習慣に乏しいので、その方策すら想像できなかったのだと思います。

2 人事課の弱さ

 厚労省には約20の人事グループというものが存在しており、実質的には人事課ではなく、各人事グループ長が職員の人事権を握っています。とはいえ人事課も存在しており、組織の危機管理や労務改善等に取り組む部署としても機能しています。

「飲み会は4人以下で、20時まで、もし実施したらXXという処分」といったことの周知は、本来人事課が行うべきですが、組織内での存在感は薄いため、強力な周知、また周知がされていたとしてもその徹底が図られていなかったのではないかと推測できます。私が厚労省に勤めていた頃のことを思い出しても、前述の超長時間労働と相まって、人事課からのメールを入念に読んだり、上司から人事課の周知事項の徹底が図られた記憶はありません。実際に、厚労省の関係者から話を聞いてみても、宴会に関してそのような事前周知は記憶に無いとのことでした。

 国家公務員は国民に範を示すべきであり、わざわざ周知事項を徹底する必要は無いと思われるかもしれませんが、筆者が現在勤めている企業では、個々人の裁量だけに委ねず、組織として未然に防ぐために週1回必ず人事からの徹底事項は時間を取って周知されます。仮に、大人数で宴会を開いた場合に厳しい処分が下されることが徹底的に周知されていれば、今回の送別会問題は発生しなかったと思います。

 また、厚労省の関係者からは、「もし、テレワークが今より推進できていれば、送別会問題を防げた可能性もある」との声もあります。出勤する人数が制限されていれば、送別会のためだけにわざわざ集まろうとはならなかったはずですし、送別会後の厚労省内での感染者の広がりも防げたことでしょう。過労死ラインを超える長時間労働が常態化し、労働時間のルールが形骸化していることからも分かる通り、テレワークの推進に関しても、人事課の労務管理、そしてその推進方法には課題があります。

 今回は、厚労省職員個々人の「甘さ」を超えて、送別会問題を構造的に考察しました。

 繰り返しになりますが、今回の問題を個々人の「甘さ」に帰結させるだけでは、類似事案の再発防止は不可能でしょう。元厚労省職員として、そして1国民として、なぜ今回の問題が発生したか、職員の資質の問題に留めずに振り返るとともに、厚労省には今後どのように防ぐかを熟考していただきたいと思います。

おもち
キリン頭の元官僚系Vtuber。2010年代厚生労働省へ入省。不祥事対応を経て民間企業へ転職。元同僚から転職相談等を受ける中で、霞が関の超長時間労働などの問題に危機感を持ちはじめ、Twitter、YouTubeで発信を開始。SNS総フォロワー約4万人。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月26日掲載

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