ゴミ屋敷に閉じ込められた20匹の猫を救え――東京・武蔵村山で勃発した市民vs行政の“30日戦争”
市役所、動相センターの言い分
振り返って目につくのは、行政の対応の悪さであろう。武蔵村山市協動推進部環境課課長は、取材にこう答える。
「今回のように飼い主が急死した場合、ペットは遺族に相続されます。私たちとしては、息子さんの同意なく、勝手に動くわけにはいきませんでした。おばあさんの死亡が確認された翌日、息子さんに面会した際には、引き取りを希望されましたので、動相センターの連絡先を紹介しています。そこで、しばらく餌やりに通うという話も確認しております。結果的に息子さんは動相センターへの連絡をせずじまいだったのですが、私たちもお母様が亡くなられたばかりで喪に服している息子さんに、こちらから連絡をするのも憚られ、連絡を待っておりました」
結論から見ると、東大和署が息子に連絡を取り緊急捕獲が実現した。市が積極的に動けば、もっと早く解決していた可能性があるのではと問うたが、課長はこう答えた。
「あくまで動物愛護法の所管は動相センターにありますので、センターさんと相談させていただきながら、私たちは法令に則って、精一杯動いてきたつもりです」
一方の動相センター多摩支所所長もこう答えた。
「所有者である息子さんからの依頼がない限り、私たちは動きようがありません。警察のように立ち入る権限も持っておりません。息子さんとコンタクトを取っていたのは市で、最後まで直接私たちのところに連絡はありませんでした」
捕獲方法が乱暴だったこと、結果的に1匹取り残してしまったことについては、
「私たちは、愛護団体の方々とは違うやり方でやっております。警察から急な依頼を受けた深夜の捕獲だったので、致し方なかった面もあります」
行政機関が動かなかった中、事態の解決に動き出した警察は唯一の功労者とも言えよう。だが一方で警察は、Evaの松井さんが電話で掛け合った時はまったく動こうとしなかった。有力政治家の“圧力”では動けど、市民の訴えは軽視していたということなのか。
警視庁にも取材を申し込んだが、「個別具体の案件については回答を差し控えさせていただきます」という木で鼻をくくったような回答しか来なかった。
看取りするしかない猫
動相センターから引き取られた猫たちは、病院で手当を受けたのち、各団体に振り分けられ治療を続けている。立川市ボランティアの「砂川猫」の大熊真由美さんも2匹の猫を預かっている。
「当初は動物園みたいなひどい悪臭がしていましたが、最近になってようやく臭いがしなくなりました。体調が悪くて風呂になんか入れさせられる状態ではありませんでした。保護されたほとんどの猫が、あばらが浮き出るほどやせ細り、口内炎もひどくて自力で餌を食べる力も失ってしました」
Evaの松井さんはこう憤る。
「市は、息子さんが餌を二日おきにやっているから大丈夫と言い続けてきましたが、それを確認しようともしなかった。実際は、餌が十分にあったとしても食べられる状態ではなかったし、現に2匹が遺体となって発見されたのです。行政も警察も動物の福祉に立ったマインドがまったく感じられなかった」
最初にSOSを発信し、救出劇の中心的役割を果たした山口さんは、18匹のうち6匹を引き取り、現在も仕事の合間に看病を続けている。山口さんも行政への怒りが収まらない。
「うち2匹は腎臓病の末期で看取りも覚悟で世話している状態です。なぜ事態を把握しながら行政が主体的に動いてくれなかったのか、腹が立ってなりません。動物愛護活動はボランティアと行政が連携しなければ成り立ちません。けれど、彼らはずっと私たちを疎んじるような態度を取ってきた。もっと早く動けば、亡くなった2匹も助けられたはず。二度とこういうことが起きないよう、私たちが経験してきたことを社会にフィードバックしたいです」
[5/5ページ]