「車椅子ユーザーのワガママ」と言う人に知ってほしい現実 乙武さんとの旅行で実感した「果てしない不便さ」(中川淳一郎)

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『ママは身長100cm』の著書で知られるコラムニストの伊是名夏子氏(電動車椅子使用者)に、ネット上で心無い声が多数寄せられました。5ちゃんねるのスレッドのタイトルを見れば概略は分かります。「車イス女性『JRで男駅員4人集め階段運んでと言ったら“乗車拒否”。せっかくの旅行を壊された』」。伊是名氏が熱海市の来宮神社へ子供たちやヘルパーと一緒に行った時の話です。

 批判の内容は「落としたら責任取れない」「職員はあなたを運ぶためにいるのではない」「障害者なら何でも許されると思っているのか」などです。

 伊是名氏はブログで〈車いすユーザーは確実にこれから増えるし、高齢者やベビーカーユーザーにとっても同じ困りごとがあるので、一人でも多くの人に知ってもらい(後略)〉たいと、今回の旅の顛末をつづりました。

 電動車椅子使用者にとって、旅行って大変です。以前、乙武洋匡氏と一緒に京都へ行きました。その時、「新幹線までと京都市内はタクシーで移動すればラクですかね♪」と言ったのですが、氏は不敵な笑みを浮かべ「フフ、それは大変だと思いますよ。中央線と地下鉄の方がラクです」と言う。

 そこからは想像以上の大変さでした……。まず、JR新宿駅から中央線に乗るのに難儀します。事前に駅員には到着時刻を伝えて、乗車時用のスロープを用意してもらいます。幸い、新宿にはエレベーターがあるのでホームにはラクに行けます。しかし、15分後に来るはずの駅員は多忙で来られず。新幹線では、車椅子を置くことができる「多目的室」(1編成に1部屋だけ)を2週間前には予約していました。

 この予約時刻に間に合わなくてはまずいのですが、駅員は到着しない。私と編集者に乙武さんは「お二人にお願いします。車椅子の後方のでっぱりを踏んづけて、両側から後ろに引くと前輪が浮きます。それで電車に入れます」と言う。

 この車椅子は重量100kg。男2人だからこそ乗せられましたが、女性1人だったら難しかったのでは。

 京都市内で乙武さんは行動範囲のすべてのエレベーターと多目的トイレの場所を知っていました。用を足す時刻も考慮しながら水分補給をするのです。移動は基本は地下鉄。

 そしてタクシーですよ。車椅子も乗せられることがウリのジャパンタクシーですが、3台連続で乗車拒否! 理由は「トレーニングを受けていない」から。3台目の女性運転手が気の毒そうに「トレーニングを受けている者がおりますので一緒に待ちます」と、別の運転手を呼んでくれましたが、到着は40分後。ところが停車位置が悪かったためスロープの設置がうまくいかず、運転手と私とで持ち上げようとするも乙武さんと合わせて140kg超は苦しい。通行人は困惑して通り過ぎるだけ。見かねた中国人男性観光客が手伝ってくれ、ようやく乙武さんは車内へ。

 寿司店へ行き、食後は同じ運転手に指定の時刻に来てもらいます。結局エレベーターと段差のない道が車椅子にとっては重要なのですが、多くの人々は車椅子ユーザーの普通の要求を「ワガママだ!」と糾弾する。あの旅行を経験したため私は伊是名氏の言いたいこと、分かりますよ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年4月22日号掲載

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