慰安婦訴訟、判決が3ヶ月前と分かれた理由 曖昧な判断を下したワケ

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国際的なルールを優先

 韓国のソウル中央地裁は、4月21日、元慰安婦や遺族20人が日本政府を相手取って損害賠償を求めていた訴訟(慰安婦2次損害賠償訴訟)で、訴訟要件を満たしていないとして原告の訴えを却下した。同地裁は同年1月、日本政府に対して別の12人の原告に1人当たり1億ウォン(約965万円)の賠償金の支払いを命じる判決(慰安婦1次損害賠償訴訟)を下したばかりであり、それとは異なる判断を下したことになる。とはいえ、どちらかに軍配を上げることもなかった。その理由を探る。

 今回の訴訟を便宜的に慰安婦2次損害賠償訴訟と呼ぶが、これは2016年末に始まった。

 裁判自体を認めない日本政府が訴訟関連資料の送達を拒絶し、2019年3月、訴訟関連書類を受け取ったと見なす「公示送達」の手続きが進められた。

 地裁は7回の弁論を経て今年1月13日に判決を下す予定だったが、「主権免除に関して追加審理が必要」として延期していた。

 主権免除とは、主権国家が他国の裁判管轄権から免除される国際的なルールである。

 ソウル中央地裁民事合議15部(閔聖哲部長判事)は、日本政府が主張する主権免除を適用する判断を下した。

 2004年、ナチスによる強制労働被害者がドイツ政府を相手取って起こした訴訟で、イタリアの最高裁が「主権免除の例外」として賠償金の支払いを命じる判決を下した。

 しかし、国際司法裁判所(ICJ)は「ナチスの行為は国際法上の犯罪だが、主権免除は剥奪されない」として、ドイツ政府が主張した「主権免除の原則」を認めている。
 
 今回のソウル中央地裁は「主権免除の例外を認めると、宣告と強制執行の過程で外交的衝突が不可避」と説明した。

履行できない判決の意味

 地裁はまた、2015年の慰安婦問題日韓合意について、内容と手続きに問題があったが、外交的な要件を備えているとし、「韓国の立場だけを一方的に反映できない」「合意は(慰安婦)被害者の同意を得ていないが、一部の被害者は(合意に基づいて日本の拠出金で設立された)『和解・癒やし財団』から現金を受け取った」と述べた。

 ソウル中央地裁は、今年1月8日、今回とは別の12人の慰安婦が起こした裁判(慰安婦1次損害賠償訴訟)で、「日本の不法行為に国家免除は適用できない」として日本政府に対し、原告1人あたり1億ウォンの損害賠償金の支払いを命じる判決を下したばかりだった。

 1次と2次で判断を分けたものはなんだったのか?

 裁判所は判決を下したら終わりではない。

 通常、民事訴訟は敗訴した側が訴訟費用を負担する。また敗訴した側が判決を履行しない場合、原告の申し立てを受け、被告の財産を差し押さえて現金化し、原告に支払って一連の訴訟手続きが終了する。

 1次訴訟では、ソウル中央地裁が原告の訴えを全面的に認める判決を下し、訴訟費用も日本政府が負担するよう言い渡したが、同地裁は3月29日、日本政府から訴訟費用を徴収できないという決定を下している。

 元慰安婦被害者ら12人は、経済的に苦しい人のため訴訟費用の納付を猶予する制度を利用した。とはいえ、日本政府は主権免除を主張して裁判自体を認めていないため、賠償金はもとより、訴訟費用の支払に応じる考えもない。

 残る手段は差し押さえになるわけだが、日本政府は、1965年の日韓請求権協定で韓国内に保有していた資産を放棄しており、いま有しているのは、大使館や領事館など、ウィーン条約で差押えや強制執行が免除されている資産くらいしかない。

 また、日本国内にある日本政府の資産の差し押さえは日本側の承認が必要だ。日本は最高裁が元慰安婦の請求権を認めない判断を下しており、司法当局が許諾することはない。

 日本政府が韓国と日本以外の第三国に所有する資産もまた、当該国の承認が必要で、日韓の葛藤に巻き込まれたくない各国が応じる可能性はゼロに近いだろう。

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