“犯人はアイツだ” ネット上で誹謗中傷が飛び交う三鷹「地域猫虐待死事件」の真相

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芸能人たちの責任

 このような地域の分断を招いてしまった元凶は、事実関係を確認しないまま事件を拡散した芸能人だと指摘する声もある。前出の動物愛護団体Mの代表はこう語る。

「杉本さんにしても、二階堂さんにしても悪意があったわけではないと思います。けれど、芸能人なのだからご自身の発言の影響力を考え、責任を持って発信して欲しい」

 同代表によると、この騒ぎに乗じて怪しげな動物愛護団体も出てきたという。

「その団体は『タヌキちゃんの犯人逮捕を』と署名運動を始めました。けれど、調べても活動実態がないようなところだったのです。さらに問題なのは、この団体がこの署名運動にかこつけて、クラウドファンディングを始めたことです。この団体のページを貼り付け、〈犯人逮捕の為、よろしくお願いします〉と呼びかけていた芸能人もいました」

 杉本彩氏が代表を務める「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」は、このように回答した。

「私たちはT会から虐待の通報を受け、事件を認知致しました。その後、実際に遺体写真も確認しましたが、それは自然死や交通事故死では説明つかないほどひどいものでした。ただし、事件現場を描写したコメントは、T会からの内容をもとに書いたものであり、遺体発見時の実際の様子を確認したわけではないこと、そして描写のコメントにより多くの方にショックを与えてしまうということから、HPから一部表現について削除しました。

 私たちは、虐待の証拠が遺体しかない以上、適正な捜査をしていただくために、目撃情報などを集め警察に寄せて欲しいと、呼びかけてもらうよう警察に要望書を提出しました。その後、SNSで犯人捜しをするような書きこみ等があることは承知していますが、犯人に繋がる捜査については、写真以上の証拠である遺体を回収している警察が取り仕切るべきだと考えています」(事務局長)

記者が見た「遺体写真」

 実際、タヌキちゃんは本当に惨殺されたのだろうか。記者は1週間かけて関係者らに取材を続けてきたが、最終日に真相の手がかりとなる遺体写真をX氏から見せてもらった。X氏はT会から写真を提供されたという。

 陽光が降り注ぐ中、雑草の上に横たわっているタヌキちゃんの姿が写されていた。

 顔は原型を留めないほど潰れ、口の中には赤い血がはっきりと写っている。体には外傷は見当たらなかったが、前脚のあたりが、血の痕だろうか、薄く赤色に染まっている。別の角度から写した写真では、肛門のあたりがわずかに出血しているようにも見えた。

 T会が最初に発信した状況とは隔たりはあるものの、何らかの人の手が加えられた可能性が高いと考えられる写真であった。ある警視庁関係者はこう明かす。

「タヌキちゃんの遺体の横には、顔の大きさほどの血だまりはあった。周辺で血が確認されたのはそこだけです。一番のポイントは、遺体に血がほとんどついていなかったということ。生きている間に虐待されていたならば、鮮血が出て、体に血がつくはずなのです。遊歩道で何らかの原因で亡くなった後、土手のほうに投げ込まれたのではないか。血だまりは、その際、顔を強く打って出たものなのではないか」

真実の行方は……

 もちろん、これはあくまで一つの推測である。警視庁関係者はこう続ける。

「三鷹署の失態は、虐待の可能性を最後まで捨てず、慎重に遺体を扱わなかったこと。ただ一方で、現場から明らかに虐待があったと示す証拠が見つからなかったのも事実です。当然、生首が見つかったとか、体が切り刻まれていたとなれば慎重に捜査した。もちろん、これだけの騒ぎになったのだから、現在も事件と事故の両面で捜査は継続していますよ」

 真実は闇の中だ。ただしこれを、猫一匹の死と、決して軽んじるべきではない。神戸連続児童殺傷事件しかり、動物虐待を繰り返す人間の攻撃対象がやがて人間に向けられていくケースが多いことは、犯罪研究の中で明らかになっている。

 関連は不明だが、4月2日には、タヌキちゃん事件があった現場から4キロほど離れた場所で、鼻に釘のようなものを打ち込まれた地域猫が発見された。幸い一命をとりとめ、現在は発見者によって育てられているという。この事件も三鷹署が動物愛護法違反容疑で捜査を続けているが、いまだ犯人逮捕には至っていない。

 弱い動物を虐待する人間がこの社会にいる。だが、その卑劣な人間に対する怒りが、“正義”の刃となって周囲に向けられ、社会の軋轢を生んでいる現実からも目を背けるべきではない。

デイリー新潮取材班

2021年4月21日掲載

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