妊娠中の妻の不倫を疑い、自分も不倫… 取っ組み合い夫婦喧嘩の後も続く止められない関係
元カノと再会
それからも妻の帰宅が遅くなると、またあのアパートで……と疑念がわいた。何度か見に行ってみたこともある。部屋の電気が点いているのを確認した日は、いつにも増して妻の帰宅は遅かった。
「証拠はないんですよ。妻はごく普通にふるまっていた。たまにぼんやりしていることもあったから、悩んでいたのかもしれません。身重な妻を追いつめたくなかったし、自分も決定的なことを聞きたくなかった。だから見て見ぬふりをしてしまったんです」
それでも気持ちはおさまらなかった。何かモヤモヤしたものが体に巣くうようになった。学生時代から親しくしている男友だちを呼び出し、愚痴を聞いてもらっていたら、そこへ偶然、昔つきあっていた遼子さんが現れた。
「そんなことってあるのかという感じでした。まあ考えれば、その店は学生時代から通っていたところ。卒業してからつきあった遼子ともよく行ったので、不思議ではないんです。僕自身が久しぶりにその店に足を運んだので、まさか元カノが今もたまに来ていると知らなかったんです」
遼子さんは女友だちと来ていたが、友だちはすぐに帰り、和紀さんたちに合流した。久々に会ったふたりは盛り上がり、彼は「うれしいようなせつないような複雑な気分で、完全にタガが外れた感じ」になったという。
「気づいたら朝で、知らないところで寝ていた。隣を見ると遼子がいて……。『ストレスたまってるみたいね。大丈夫?』と彼女に言われました。どうやら僕、妻について愚痴をいいながら、泣いて彼女にすがりついたそうです。情けないですね」
ともあれ関係は復活してしまった。バツイチの遼子さんは、あっさりしていて「いつでも来ていいよ」と言ったそう。
「夫婦関係のとばっちりはごめんだからね、と釘を刺されました」
和紀さんは苦笑した。
そして修羅場に…
その後、無事に長女が誕生。紘子さんも落ち着いているように見えた。和紀さんはこれを機に家庭に向き合おうと決意した。
7ヶ月ほどたって保育園も決まり、紘子さんも会社に復帰。今後は家族3人で楽しく暮らそうと思っていたが、どうにも気になるのが例のアパートだった。だが彼は自分を抑えた。行けばよけいなことを考えてしまう。
そんなとき遼子さんから連絡があった。「男にフラれた」と泣いている。友だちとして放っておけず、朝近くまで一緒に飲んだ。友人が落ち込んでいるからと妻には連絡したが、なんともバツが悪い。
「夜明けにこっそり帰ったら、妻は玄関で座り込んでいたんです。子どもが奥で泣いているのが聞こえるのに。僕を見るなり『裏切り者!』叫んでグーパンチが飛んできました。何もグーで殴らなくても……。鼻血を出しながら子どもをあやしに行ったら、子どもがさらに泣いて。当然ですが途方に暮れました」
拳でパンチとは勇ましい。つい吹き出して和紀さんに睨まれた。笑うところではないのだ、確かに。
「浮気してるでしょと妻に言われて、うっかり『そっちこそしてるだろ、アパートをなぜ解約しないんだ』と怒鳴ってしまいました。未確認だからカマをかけただけなんだけど、『人のあとをつけてるわけ!? どういうことよ!』と彼女も激昂。取っ組み合いのケンカになってしまって」
初だったという夫婦喧嘩は、すさまじいものとなった。鼻血やらひっかき傷やら青あざなどを抱えながら、ふたりは初めてきちんと向き合って話をした。だが、妻は「アパートは結婚と同時に解約している。人違い」の一点張り。彼は彼で、「浮気などしていない」と完全否定。話し合ったが、互いに指摘された振る舞いについては認めなかった。
「とにかく、今をスタートとしてもう一度、やり直そうと僕が言って、ようやく彼女も頷きました。だけど彼女は納得していなかった。僕も納得していない。アパートの貸り主を確認しようかと思いましたが、やはり怖くてできませんでしたね」
37歳のときに生まれた娘は、いま5歳になった。かわいくてたまらないと和紀さんは言う。妻には、やはり結婚当初のような信頼感はなくなっている。それでも、妻が家庭を大事にしていると思えるから、このままでいいと思っているそうだ。
「ときおり、妻は土曜日に仕事だと言って出かけていくんです。怪しいとは思っているけど、そういうときは夕方には帰ってきますし、娘とふたりで遊んでいるのは楽しいから、もう根掘り葉掘り聞かないでおこうと思っています」
それなのに、和紀さんのほうが、例の遼子さんとまた会ってしまい、ここ半年ほど関係が続いている。
「遼子はもともと恋多き女で、僕たちが若いころ別れたのもそれが原因。今も彼女は恋してダメになると僕に連絡してくる。飲みに行くだけのこともあれば、なんとなく互いに欲してしまうこともある。恋愛というわけでもなく、なにやら曖昧な関係ですが、最近、僕のほうがすごく罪悪感を覚えるようになってしまったんです。娘の顔を見るたび、いかんと自分を叱咤する。でも遼子に会ってノリが合うとつい彼女の部屋に行ってしまう。帰宅して娘の寝顔を見て涙ぐむ。その繰り返しなんです」
妻が不倫をする場合、ある種の覚悟があって関係に踏み込んでいるケースが多い。だが男性の場合は、和紀さんが言うように「ノリ」で関係を続けてしまうことが多いため、大事な娘の存在が罪悪感を刺激するのかもしれない。不倫をやめればいいだけのことなのだが、彼自身も心に穴を抱えている。そこを塞げず、穴がさらに深く大きくなることへの不安があるのかもしれない。だから気心知れた遼子さんに会ってしまうのではないだろうか。
「もし妻が浮気しているとしたら、たいしたものだと思います。家の中ではおくびにも出さない。今の僕は家でもけっこう気持ちが揺れがちで、妻から見ると怪しいかもしれません。早くすっきりさせなければと思ってはいるんですが……」
そう思っていても、遼子さんから連絡があれば、つい出向いてしまうのだろう。和紀さんは女性を振り捨てることができないタイプなのかもしれない。
今も、それぞれが抱えているであろう秘密の上に、この夫婦関係は成り立っている。この先、どうなっていくのだろう。
[2/2ページ]