奇跡の同点で延長17回の死闘…球史に残る“伝説の延長戦”3試合を振り返る

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 今季のプロ野球は、コロナ禍の影響で9回打ち切り制が採用され、延長戦がなくなった。各チームの監督にとっては、継投や代打のタイミングもある程度計算できる9回制は大歓迎だろうが、その一方で、引き分けの激増も予想され、「延長戦で決着をつけてくれたらいいのに」というファンの不満も高まりそうだ。過去においても、意外性のドラマが織りなす名勝負は、やはり延長戦にもつれ込んだケースが多かったのも事実。そんな球史に残る“伝説の延長戦”を振り返りたい。

起死回生の同点ソロ

「延長17回」という今ではあり得ないイニング数もさることながら、二度にわたって“奇跡の同点劇”が演じられ、1979年夏の甲子園、箕島vs星稜(延長18回)の“プロ野球版”と呼べそうなのが、67年4月30日の阪神vs広島(甲子園)である。

 阪神・村山実、広島・池田英俊の両先発がともに譲らず、延長10回を終わって0対0。その後、投手戦は11回に急展開を見せる。

 まず、広島が1死から4番・山本一義の中前安打でチャンスをつくり、寺岡孝の左中間二塁打でついに均衡を破る。その裏、阪神は簡単に2死を取られ、追い詰められたが、「こんなときに何とかする打者」と藤本定義監督が村山の代打に送り出した“ヒゲ辻”こと辻佳紀が、左翼ラッキーゾーンに起死回生の同点ソロ。「あと一人」で完封勝利を逃した池田は、マウンドの土を投げて悔しがった。

 その後、両チームともリリーフ陣が踏ん張り、ゼロ行進が続くが、17回に広島がビッグイニングをつくる。左肘の炎症を押して13回から投げつづけていた阪神の3番手・権藤正利に山本一の2ランなど4長短打を浴びせ、5対1と勝ち越し。誰もが「勝負あった!」と思った。

 ところが、その裏、阪神も粘りに粘る。先頭の代打・辻恭彦が安打で出ると、2死二塁から藤井栄治のタイムリーで、まず1点。さらに安打と連続四球で押し出しの1点を追加したあと、なおも満塁で、“ラッキーボーイ”辻佳紀が、広島の3番手・三好幸雄に1-2と追い込まれながらも、中前に同点2点タイムリー。「2ストライクを取られても、オレはヒットを打てると思っていた」という自信が驚異の同点劇を呼び込んだ。

 かくして、延長17回の死闘は5対5の引き分けでゲームセット。藤本監督は「えらい長い試合やった。こんな長丁場は記憶にない。何時間? 4時間45分? そうやろ」と負け試合を引き分けまで持っていったことに安堵した様子だった。一方、目前の勝利を逃した広島・長谷川良平監督は「負けたときよりも疲れたようだ」と足取りも重く、帰りのバスに乗り込んだ。

「まるで昨日のこと」

 この4時間45分を1時間以上も上回る“スーパー打撃戦”となったのが、93年5月20日のヤクルトvs広島(神宮)だ。先発・荒木大輔が3回途中でKOされ、2対5とリードを許したヤクルトだったが、3回に池山隆寛の逆転満塁弾と3ランの1イニング2本塁打など、打者14人の猛攻で一挙11得点。13対5と逆に大差をつけた。

 だが、広島も負けていない。4回に4番・江藤智の二塁打で2点を返すと、5、6、7回にも1点ずつ小刻みに得点を重ね、4点差まで追い上げる。これに対し、4回以降わずか1得点だったヤクルトも、7回に荒井幸雄、ハウエルの一発攻勢で2点を追加して16対10。試合を決めたかに思われた。

 ところが8回、広島は前田智徳の左前2点タイムリーなど、四球を挟む6連打で5点をとって、怒涛の猛反撃。さらに2死後、山崎隆造の右前タイムリーで、ついに同点となった。

 しかし、ここから試合は一転して佐々岡真司と山田勉の投手戦となり、広島は9回以降3安打、ヤクルトも9回から13回まで2安打と沈黙する。そして14回、3四球で2死満塁としたヤクルトは、ハドラーが中前に弾き返し、ようやく17対16で5時間46分の大激戦に終止符を打った。

 試合後、一人で8打点を叩き出した池山は、3回の2本塁打について「まるで昨日のことだよ」と振り返ったが、実は試合が終わったのは「午前0時6分」。本当に昨日の出来事になっていた。

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