車谷前社長が引き寄せた東芝「解体」「身売り」のXデー、お粗末過ぎる辞任のウラ側

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法的根拠の薄い“圧力”

 さらに話を複雑にしたのが、政府主導のアクティビスト対策だ。

 東芝は東京電力福島第1原発の廃炉作業や先端情報処理、機微軍事技術(武器や軍事転用可能な技術)にも関わっており、日本の安全保障にとって重要な企業といえる。20年5月に政府は、外国資本による重要企業への投資を厳格に監視する改正外為法を施行したが、これが東芝を守る「アクティビスト対策」だったと言われる。霞が関関係者が語る。

「改正法には、企業経営に口を出すアクティビストをけん制するような措置が盛り込まれました。安全保障に関わるような指定業種の企業に、海外企業が1%以上の出資をする場合、届出を行うことを義務付けました。ですが、経営に口を出さなければ、届出は必要ありません。まさに、アクティビストにつき上げられている東芝を守るために整備されたと言えます。車谷氏やその周辺が経産省や首相官邸に泣きつき、実現したと見られています」

 そして同時期、英「フィナンシャルタイムズ」や「ロイター」などは、「20年7月の株主総会直前に、経産省に近い金融関係者が、東芝の株主である米ハーバード大学が運用するファンドに対し、(エフィッシモなどのアクティビストによる)東芝に敵対するような提案に賛同すれば、改正外為法に基づく調査対象になる恐れがあると圧力を掛けていた」と報道した。大手紙の経済記者が説明する。

「記事に出てくる“経産省に近い金融関係者”は、車谷氏が経産省や官邸に相談し、アドバイザーとして紹介された人物です。金融関係者は車谷氏の意向を受けて、ハーバード大に働きかけたのですが、そもそも改正外為法は、すでに株を持っている出資者ではなく、施行後に出資した企業やファンドが対象ですから、改正外為法に抵触する可能性は低い。法的根拠の薄い“圧力”でした」

 エフィッシモは昨年の株主総会でこうした件などについて第3者による調査を求め、今年3月18日の臨時株主総会では、エフィッシモの提案が賛成多数で認められた。

 この改正外為法の影響で、アクティビストと東芝の関係はより険悪になっていく。そして、それを制御できない車谷氏への風当たりも強まっていった。CVCが東芝に「現経営体制の維持」を明記した買収提案を送り付けたのは、その最中だった。

「車谷さんが自身の地位を守るため、CVCを呼び込んだとしか思えません」

 と、東芝社員も語る。社内外でこうした憶測が広がり、永山取締役会議長らは車谷氏へ解任もちらつかせざるを得ず、冒頭のような辞任劇となったのだ。

「買収合戦」になるか

 だが、車谷氏が東芝社長の座を降りても、CVCの動きがすぐに止まることはなさそうだ。

 グローバル投資ファンドにとって車谷氏は「東芝に近寄るための船頭」にすぎず、彼がいなくても、東芝自体には投資する価値がある。M&Aに詳しい金融機関幹部は、こう話す。

「むしろ、ここでCVCが退けば、車谷氏と連携していたことを認める形になってしまいます」

 さらに、CVCが東芝買収の可能性を明示したことで、東芝の株主達は「東芝買収合戦」への期待を脹らませ始めた。CVCに対抗する買収者が続出すれば、最終的に高値での買収となり得るからだ。東芝に出資する香港のファンド「オアシス・マネジメント」はすでに、CVCが最初に示した買収提案をめぐり、「1株5000円では安すぎる。6200円以上が適切だ」との声明を発表した。米国の有力投資ファンド「KKR」やカナダのファンド「ブルックフィールド・アセット・マネジメント」も、CVCに対抗するような東芝買収策を検討していることが報じられている。

「買収を得意とする米欧の巨大ファンドは、ほぼすべてと言っていいほど、東芝買収の可否を調べ始めているはずです」(前出のM&Aに詳しい金融機関幹部)

 多くの買収提案は東芝の全株式を買収した後、非公開化したうえで経営改善し、再上場を目指すものになるはずだ。買収合戦勃発を目前に、東芝取締役会は「上場を維持したい」という意向を取引銀行などにも説明している。だが、

「買収提案が水面下で続き、買取額が上がっていけば、株主への責任を果たすため、早々に東芝は身売りを検討せざるを得ない局面が来るかもしれません」(大手投資会社)

 これまでの経営危機で東芝は家電やパソコン、メディカル事業なども手放し、事業同士の関連が乏しいコングロマリット企業になってしまった。東芝に関わってきた銀行幹部は、こう嘆いた。

「東芝は本業に成長の芽がない企業になってしまい、厳しい金融の世界の餌食にされ、分割、再編される可能性が高まってきました。グローバルな金融資本市場に触れる機会がなかった、日本のものづくり産業の末路を見るようです」

デイリー新潮取材班

2021年4月20日掲載

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