エビデンスを“誤用”する大人はダメ 若者が身につけるべき世界に通じる唯一の習慣
「科学的」な態度とは
「理系の学生が、社会で活躍できるフィールドは確実に広がっている」――。
そう語るのは、『「科学的」は武器になる 世界を生き抜くための思考法』(新潮社)の著者で東京大学名誉教授の早野龍五さん(物理学)だ。その理由は、2000年代に入り、ビジネスの世界でも「エビデンス(証拠)に基づいた決定」や「データサイエンスを使った分析」が広がってきたからだ。
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特に「エビデンス」という言葉は、ちょっとした流行語のようになった。だが、そこには、ひとつの落とし穴がある。
「例えば、『ある場所でAという商品が買われると、Bも買われていく』という現象があったとします。ここだけ抜き出して、『AとBが関係している。エビデンスもしっかりある』という言い方をする人が、理系・文系問わずいます。ですが、ちょっと待ってほしい。それはただそう見えるだけなのか、単なる偶然の一致でそういう人もいただけなのか。本当に原因と結果が結びついているのかは、検証が必要なのです。安易に断言せずに、丁寧に調べようとする姿勢こそ『科学的』な態度ですが、それができている人は少ない」
理系を目指す学生も、最初は多くが「検証」をおろそかにして、結論を先に求めようとするという。その原因はどこにあるのだろうか。
早野さん自身、東京大学を定年退職後、(幼児の)音楽教育法「スズキ・メソード」の会長に就任したり、糸井重里氏が代表を務める「ほぼ日」で初のサイエンスフェローとして働いたりと、以前よりも学問の外の“世間”とのかかわりが増えるなかで、実感したことがある。世間には、「科学は『正解』を教えてくれるもの」という思い込みが広がっていることだ。
「巨人の肩に乗る」
子どもの頃に学校でイヤイヤ実験をやらされた、よく観察しろと言われた、数式を書かされて証明させられた――。そして最後には、教科書に書いてある「答え」と照合する。それこそが、多くの人の抱く科学のイメージになっている。それは言い換えれば、受験のための科学だ。
「受験のための科学では、『なぜその結果になるのか?』『なんのためにそれをやるのか?』といったことは問われません。しかし、社会に出れば教科書はない。正解がどこかに書かれていることのほうが少なく、自分で『なぜなのか』を調べないといけない。冒頭に挙げたAとBの例えで言えば、どこの場所でも同じ動きをするのか、誰が検証しても同じような結果になるのか、その『質』にもちゃんと目配りできる人は、きっと多くのフィールドで活躍できるでしょう」
これから世に出ていく学生や若者が、「勉強」のように正解を求めるだけでなく、科学の世界における「研究」の基礎のように、自ら問いを立て、検証する力を身につけるためには何が必要か。早野さんはそれを2つに整理した。第一にインプットの大切さ、第二に「発見の感動」を受け取ることだ。
「研究の本質は、『今まで誰もやったことがないことに取り組むこと』にあります。
アイザック・ニュートンは『巨人の肩に乗る』という表現をしますね。巨人というのは、先人の積み重ねのことです。何か新しい成果を出すには、巨人の高さをまずは知らないといけない。過去の蓄積を膨大にインプットすることで、学生ははじめて自分が現在どこに立っているかを知り、そしてアウトプットする力を身につけられようになるのです」
インプットする力は、就職してからビジネスパーソンにも求められるものだ。なぜかというと、それがなければ常に「一昔前の常識」に捉われ続けてしまうからだ。新しいものを取り込み、時代の進展に合わせてアップデートすることで、アウトプットも磨かれる。こうした習慣を身につけるチャンスは、社会に出てからは少なくなる。だからこそ、学生時代に習慣化できれば、それは一生の財産になるという。
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