妻と愛人が同じ寝室で暮らす「妻妾同衾」を平然と行う男 「華麗なる一族」が描いた強いリーダー像

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「WOWOW開局30周年記念」と銘打って4月18日から放送・配信されるのは、作家・山崎豊子の『華麗なる一族』。神戸の地銀を都市銀行に発展させ、「阪神特殊鋼」「万俵不動産」「万俵商事」などを有する一大コンツェルンを築いた万俵(まんぴょう)大介の悪だくみ、果てなき欲望を描く。

息子・娘たちを使って血族を増やす「獣のような男」

 大介は愛人を屋敷に同居させ、息子・娘たちを使って血族を増やす「獣のような男」。業界10位の頭取から、「小が大を飲み込む」銀行再編を目論み、閨閥を総動員、金に物を言わせ、のし上がっていく。結果、野望は実るのだが…。

 小説の舞台は、昭和40年代初めの関西。今回のドラマ化にあたり、設定はあえて当時のままとしている。半世紀前の時代を今、描くことの意味とは何なのか。山崎作品の映像化に長年携わってきた編集者は、「昭和40年代初めと現在とでは、ひとつの共通点があるのです」として、次のように解説する。

「1964年、つまり昭和39年の東京オリンピック・パラリンピックが成功裡に終わり、昭和45年の大阪万博に向けて盛り上がっていた時期に当たります。コロナで昨年、オリパラは開催できませんでしたが、4年後に大阪万博が再び予定されている。企画の段階では、当時と同じ状況下での放送になるはずだったのです」

 昭和40年代初めといえば、高度成長期の真っただ中。一方で、日本がさまざまな壁にぶつかり始めるのも、その頃からだ。

「公害が社会問題化し、学生運動も広がっていった。『華麗なる一族』で描かれている銀行再編というドラスティックな動きも、実際、その時代に起きています。現在の日本を取り巻く状況も同じ。インフラは整備され、街は著しくきれいに機能的になっていますが、地銀の再編など経済問題も取り沙汰され始めている。さらにはコロナが加わった。先行きの見えない閉塞状態が続いているところも、残念ながら当時と同じになってしまった」

作者・山崎豊子が“妻妾同衾”を描いたワケ

 ここで原作から、大介の強烈なキャラクターをひとつ、紹介しよう。大介の寝室には3台のベッドがある。妻妾同衾の生活を平然と送っているのだ。作者・山崎豊子は、その意図をこう明かしている。

〈(『白い巨塔』の)財前教授のようにただアクの強い人間では、もう二番煎じですもの。それでいろいろ考えたのが冷厳怪異な人物。そういう冷厳怪異なムードとは何ぞやと思って、妻妾同衾の人間を考えたんです〉(「取材方法と小説作法」より)

 今回のWOWOW版では、大介役は中井貴一。妻・寧子役の麻生祐未に対し、内田有紀が愛人の相子を演じる。ちなみに2007年のTBS版のドラマでは、北大路欣也の大介に、原田美枝子の寧子、鈴木京香の相子役が話題を呼んだ。大介を巡る女二人の「駆け引き」もまた、見どころのひとつだろう。

 先の編集者がこう指摘する。

「大介は強い父親であり、成功者の象徴として描かれています。どこまでも前向きで、他者に勝つことを至上の喜びとしています。シェークスピアの『リア王』や、ギリシャ悲劇に通じる部分もありますね。大きな代償を払うことになってでも、それでも前に進んでいくのですから」

 主人公・万俵大介は何度も危機に直面しながらも、諦めるどころか、なお果敢に挑戦し続ける。コロナ禍で閉塞感の続く今、万俵大介のようなガムシャラなリーダーが求められているのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2021年4月16日掲載

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