文在寅の弱みにつけ込む中国 「韓国が米側に戻る橋」を壊す
民主国家の中で孤立
――「離米従中」への警告は?
鈴置:もちろん、そこも金真明記者はしっかりと聞きました。「文在寅大統領が中国共産党100周年に祝いの言葉を述べたことに対し、米上院のR・メネンデス(Robert Menendez)外交委員長が『失望した』と述べたが、どう見るか」と問うています。
「『文在寅外し』に乗り出した米日 『中国べったり』と見切り、政権交代待ち」で引用しましたが、メネンデス外交委員長の文在寅批判は、金真明記者自身が引きだしたものです。
チャ上級副所長の韓国の「離米従中」に対する見解は以下です。
・中国に対応するため、国家連合体が組織されている。豪州、日本、米国、英国などが結集し始めた。これに参加しない1つがまさに韓国だ。同様の考えを持つ民主主義国家のなかで、韓国は自ら孤立していると憂慮せざるを得ない。
この問題に関連し、チャ上級副所長は米・日・豪・インドのQuad(クアッド)4か国と韓国が、それぞれどれだけ結ばれているか、を示す図表を示しました。
融資先の途上国を縛り上げる中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対抗するための「ブルー・ドット・ネットワーク」、中国への情報漏えいを防ぐための5G協力機構「クリーン・ネットワーク」などに加入する国は実線で結ばれている。
しかし韓国は「参加への論議はしている」ことを意味する、点線でしか他の国とつながっていない。韓国の「離米従中」を如実に示す図表です。金真明記者は不安になったのでしょう。「米国でそうした認識が広がっているのか?」と聞いています。チャ上級副所長は冷たく答えました。
・この図表をバイデン政権の関係者に見せると、すべての人が欲しがる。韓国が離れて行くとの懸念に一致するからだ。
・人権問題もこれと連携する。韓国は香港や新疆ウイグルに対し、声をあげない。だから韓国は(米国の同盟の中で)弱い輪と心配されている。
「言い訳」もお見通し
――文在寅政権は「北朝鮮の非核化のため、中国に配慮せざるを得ない」と弁解しています。
鈴置:その言い訳を、チャ上級副所長はきちんと論破しています。
・結局はいつも北朝鮮と関係するのだ。韓国は中国に立ち向かう意思に乏しい。北朝鮮問題と関連する(韓中の)協力を害すると考えるからだ。
・しかし私が見るに、その論理は何というか話にならない。(中国の)報復を恐れるほどに、一人でいるよりも(対抗する)グループに参加した方がいいに決まっている。Quadが好例だ。
・(米国の)多くの専門家は韓国がQuadに参加すべきと考えている。だが、私の理解する限り、韓国はQuadに参加したらどうかと要請されても拒絶している。
「中国包囲網に入った方が中国からいじめられない。米中二股をかけるから、いじめれば中国側になびくとなめられるのだ」との明快な論理です。
米政界は韓国の「離米従中」は非核化のためではなく、中国への恐怖感からだ、とすっかりお見通しなのです。ただ、こう指摘された韓国人が「離米従中」を軌道修正するかは疑問です。
文在寅政権に代表される左派には反米感情が根強く、米国よりも中国に付く方がいい、と考える人が多い。そもそも、普通の人や保守も含め韓国人は中国に対し極めて強い恐怖心を抱いています。それは米国人や日本人の想像をはるかに超えます。
朝鮮半島の歴代王朝は長い間、中国大陸の王朝に朝貢し、逆らうことを許されなかったからです。韓国人は頭でチャ上級副所長の理屈を理解しても、体がすくんで反中同盟に入る勇気がわかないのです。
せめて、中国傾斜に歯止め
――結局、米韓同盟はどうなるのでしょうか?
鈴置:誰もが知りたいところです。金真明記者の最後の質問もそれでした。米政府の本音は「韓国を米国の側に完全に引き戻すのは難しい。せめて中国に取り込まれていくのに歯止めをかけよう」ということかと思います。チャ上級副所長も次のように答えています。
・今、バイデン政権は(外交・国防長官で構成する)2+2会議とか、(韓米日)3か国の国家安保室長会議のような韓国を含む機構を最大限に構成しようと努力中だ。
・米国と協議し協力する習慣を徐々に作ることで、少しずつ(韓国という)舟をゆるやかに別の方向に導こうとしているのだ。
――話し合いで「食い止める」ことは可能でしょうか?
鈴置:手段は会談での対話とは限りません。記者を前にした冒頭発言や会談後の会見で「2022年3月の選挙で反米大統領をまた選んだら、捨てるぞ」と韓国民に直接、伝えるやり方もあるのです。
A・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官は3月17日、米韓外相会談の冒頭発言を利用して、韓国人にそう警告を発しました(「バイデンの最後通牒を蹴り飛ばした文在寅 いずれ米中双方から“タコ殴り”に」参照)。
バイデン大統領も、副大統領時代に朴槿恵(パク・クネ)大統領との会談で、同じ手口を使って離米従中を批判しました(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。
今後、米韓首脳会談を開くとしたら、バイデン大統領は同様の手法で「韓国人に直接に向けた警告」を発するでしょう。
2015年10月16日にワシントンで開いた米韓首脳会談で、B・オバマ(Barack Obama)大統領は会談後の会見で「韓国が米国と同じ声をあげることを期待する」と述べました。
中国の南シナ海での不法な膨張を韓国は批判しない。それどころか中国が同年9月3日に北京で開いた抗日戦勝70年記念式典に、西側の首脳として唯一、朴槿恵大統領が参加した。
韓国の「離米従中」はこの時にすでに始まっていたのですが、米国は会見を利用して「裏切り者への怒り」を韓国人に伝えたのです。
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